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仙台地方裁判所 昭和53年(ワ)723号 判決

原告 高橋信弘 ほか五名

被告 日本電信電話公社 承継人日本電信電話株式会社

代理人 阿部則之 峯岸利夫 ほか七名

主文

一  被告が原告高橋信弘、同三浦克則、同伊藤範彦、同渋谷日出夫に対してした昭和五三年六月二〇日付減給一月の各懲戒処分及び原告伊藤修、同鈴木聰志に対してした同日付戒告の各懲戒処分はいずれも無効であることを確認する。

二  被告は

1  原告高橋信弘に対し金五万四六八六円及びこれに対する内金三万九一一四円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇一五円については同年七月二一日から

2  原告三浦克則に対し金六万〇六四〇円及びこれに対する内金三万九七九五円については同年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から

3  原告伊藤範彦に対し金六万〇六四〇円及びこれに対する内金三万九七九五円については同年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から

4  原告伊藤修に対し金三万七八八二円及び内金三万三九四一円に対する同年六月二一日から

5  原告渋谷日出夫に対し金四万八五〇〇円及びこれに対する内金三万七六八〇円については同年六月二一日から、内金一万〇八二〇円については同年七月二一日から

6  原告鈴木聰志に対し金三万二九八八円及びこれに対する同年六月二一日から

各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨

2  被告(「被告」とあるのは承継前の「日本電信電話公社」をいうものとする。以下同じ。ただし、日本電信電話公社は、昭和六〇年四月一日をもつて解散し、同日成立した日本電信電話株式会社に承継されたことにより、同日後に関するものについて「被告」とあるのは「日本電信電話株式会社」をいうものとする。)は原告高橋信弘に対し金五二万四六八六円及びこれに対する内金五〇万九一一四円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇一五円については同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は原告三浦克則に対し金五三万〇六四〇円及びこれに対する内金五〇万九七九五円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は原告伊藤範彦に対し金五三万〇六四〇円及びこれに対する内金五〇万九七九五円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告は原告伊藤修に対し金三〇万七八八二円及び内金三〇万三九四一円に対する昭和五三年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

6  被告は原告渋谷日出夫に対し金五一万八五〇〇円及びこれに対する内金五〇万七六八〇円については昭和五三年六月二一日から、内金一万〇八二〇円については同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

7  被告は原告鈴木聰志に対し金三〇万二九八八円及びこれに対する昭和五三年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

8  訴訟費用は被告の負担とする。

9  第2ないし第8項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  被告は公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務等を行うため日本電信電話公社法(以下「公社法」という。)に基づき設立された法人である。

2  原告らはいずれも被告の職員で、被告管下の仙台中央電報局(以下「仙台中電」という。)に勤務し、原告高橋信弘(以下「原告高橋」という。)は運用部配達課に、原告三浦克則(以下「原告三浦」という。)及び同伊藤範彦は運用部電話通信課に、原告伊藤修は運用部第一通信課に、原告渋谷日出夫(以下「原告渋谷」という。)及び原告鈴木聰志(以下「原告鈴木」という。)は運用部検査課に所属しているものである。

3  ところで、被告は、原告らがいずれも上長の就労命令に従わず、無断欠勤をしたとして、昭和五三年六月二〇日(以下日付につき年度を示さないものは昭和五三年度をさす。)付けで、原告らを別表(一)記載の各懲戒処分(以下これを適宜「本件懲戒処分」という。)に付し、かつ、原告らが昭和五三年六月二〇日に受給すべき賃金から同表記載の各金員を差し引いた(以下これを適宜「賃金カツト」という。)また、減給の懲戒処分に付した原告らに対しては、同年七月二〇日に支給すべき賃金から同表記載の各減給額を差し引いた。

4  しかしながら、被告の本件各懲戒処分はいずれも違法、無効であり、被告は原告らに対しそれぞれの賃金カツト額、また、原告高橋、同三浦、同伊藤範彦、同渋谷に対しそれぞれの減給額を支払う義務がある。

5  また、原告らは、被告の故意又は過失による違法な懲戒処分たる不法行為により多大な精神的苦痛を受けており、これを金銭に評価すると、その損害は、減給の懲戒処分を受けた原告らについては各金三五万円、戒告の懲戒処分を受けた原告らについては各金一五万円を下らない。

さらに、原告らは、違法な本件懲戒処分の無効確認、右慰籍料等の支払を求めるための訴訟を弁護士に依頼することを余儀なくされたもので、原告各自につきその手続費用金一五万円が右違法な懲戒処分と相当因果関係に立つ損害である。

6  よつて、原告らはそれぞれ被告に対し、本件懲戒処分の無効確認及び別表(二)記載の各金員の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1ないし3は認め、その余は争う。

三  被告の抗弁

被告が本件各懲戒処分を行うまでの経緯及び処分の理由は以下に述べるとおりであり、これらはいずれも適法、有効なものである。

1  被告事業の公共性とその廉潔性の保持

(一) 被告は「公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し並びに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として」設立された公法人たる公共企業体であり(公社法一条、二条)、その事業内容は、いわば国家社会の神経系統の機能を営むものであり、無数の緊急を要する通信を昼夜をわかたず迅速に取り扱うべき使命を有していることから、高度の公共性、独占性を有し、国家、国民の日常活動にとつて不可欠の役務を提供しているものである。

(二) そして、右のような被告の事業内容の高度な公共性から、被告においては、円滑な事業の運営の確保と並んでその廉潔性の保持を社会から強く要請ないし期待されているのであつて、これがまた、被告職員の職場外における職務行為と無関係な所為に対しても、一般私企業の従業員に比較し、より広くより厳しく規制がなされうる合理的な理由となつている。このことは、後述するように、年次有給休暇(以下「年休」という。)の処理、その他職員の服務の管理についても、右の観点に立脚して行われなければならないことを意味するのであつて、いやしくも、社会的批判の対象となるような服務の管理は、厳にこれを慎まなければならない。

2  仙台中電の所掌業務、組織、機構及び勤務体制

(一) 所掌業務

仙台中電は、公衆電気通信役務の一つたる電報サービスの提供を主たる業務としている。電報サービスは、全国に張りめぐらされた電報中継交換網により提供されているものであるが、仙台中電は、右中継交換網上東北地方の総括局として、同地方に発着する電報の中継交換を行うという右ネツトワーク上の枢要な役割を果たしている。また、仙台中電は、電報の中継交換業務のほか、吉岡、松島を北限とする宮城県中央部と白石市に至る県南地方を固有の受持区域とし、同区域内に発着する電報の受付・配達業務を行つている。したがつて、仙台中電の行う電報中継交換及びそのそ通業務が停滞するときは、自局管轄区域のみならず、東北地方に発着する電報のそ通に重大な影響を及ぼすことになり、国民各層に対して回復しがたい損害を与えるおそれが極めて強い。

(二) 組織機構

仙台中電は、被告の宮城電気通信部の管轄下にある現場機関で、その組織は局長以下次表のとおりである。

┌(運用部長)─┬(運用主幹)

│       ├(配達課)

│       ├(電話通信課)

│       ├(第一通信課)

│       ├(第二通信課)

(次長)│       └(検証課)

(局長)─┴──┼────────(営業課)

├────────(データ通信業務課)

├────────(監査課)

├────────(労務厚生課)

├────────(庶務課)

└────────(営業主幹室)

右のうち、直接電報業務に携わつているのは、運用部に属する配達課、電話通信課、第一通信課、第二通信課、検査課の五課及び電報の受付、料金の収納などの窓口業務を行う営業課である。

(三) 勤務体制

仙台中電においては、直接電報業務に携わる運用部門の関係各課が二四時間(終日)業務体制を採るため、右各課所属の職員を日勤、夜勤、宿直宿明勤務など就業時刻を異にする服務形態を組み合わせた交替制による服務に従事させているが、右のような勤務体制を円滑に実施し、時間帯ごとに予想される業務を支障なく処理するために必要な人員を確保することを目的として、職員の交替服務の仕方について定めた「服務線表」(時間帯別要員配置表)を、全国電気通信労働組合(以下「全電通労組」という。)の仙台中電における対応機関である全電通仙台中電分会と協議のうえ決定し、右服務線表に基づき所属長(各課の課長)が、交替勤務に従事する各職員の具体的な勤務割を少なくとも四週間を下らない期間ごとに決定し、これを事前に各職員に通知することとしている。これにより被告は業務の円滑な遂行に必要な人員を確保できる一方、職員においても、長期間にわたつて勤務日及びその始、終業時刻並びに週休日が指定されることにより計画的な生活を送れるようになつている。なお、個々の職員に対する具体的な勤務割の指定は、服務線表に基づくものであるから、一定の順序をもつて規則正しく行われているが、その指定にあたつては職員の技能、経験等も勘案され、職員の健康管理面にも充分配意されている(例えば、午後四時から翌日の午前九時までの深夜二日間にわたる勤務((宿直宿明勤務))の翌日には週休日を二日間連続して付与し、かつ、右のような深夜勤務は一二日ごと、あるいは六日ごとに一日などの一定の間隔をおいてこれを設定している。)。

また、昭和五三年当時仙台中電の取り扱つた電報通数は、一日平均一万通(受持区域内発着電報三〇〇〇通、中継電報七〇〇〇通)に及んでいたが、その利用形態をみると、冠婚葬祭の慶弔電報が大半を占めているため、卒業祝い、結婚式などが集中する三月ないし五月及び九月ないし一一月にかけて業務量が増大し、なかんずく土曜日、日曜日あるいは祝日が大安日に当たる場合には、取り扱う電報数が平常日の二倍かそれ以上に達するため(季節ないしは曜日による繁閑の差が著しい。)、結婚式など多数の祝電が予想され、通常配置されている職員数では充分なそ通業務を図ることができないと判断される日については、これを「繁忙日」として臨時雇いを雇用するとか、管理者の応援計画を立てるなどの対応措置を講じている。

3  原告高橋に対する懲戒処分等の適法性

原告高橋に対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、同原告からなされた昭和五三年五月二〇日、翌二一日の年休請求に対し、被告が適法な時季変更権を行使したにもかかわらず、同原告が上長の命令を無視し右両日の勤務を欠いたことを理由になされたものであり適法である。

(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯

(1) 原告高橋は、昭和五三年五月二〇日、翌二一日につき宿直宿明勤務(二〇日午後四時から二一日午前九時まで)の指定を受けていたところ、同月一七日午後五時頃、今沢勝実配達課副課長(以下「今沢副課長」という。)に対し、諸休暇申出受付簿に記入のうえ、右二日間につき年休の時季指定を行つた。

(2) 右申入れを受けた今沢副課長は、鈴木弘之配達課長(以下「鈴木課長」という。)が不在であつたため、自らの判断で、右時季指定にかかる原告高橋の服務が最低要員配置の宿直宿明勤務であること、五月二〇日は大安の土曜日、翌二一日は日曜日のため仙台市内だけでも二〇日には七二組、二一日には四八組の結婚式があつて、多数の慶祝電報の発着が予想される繁忙日にあたることなどを考慮のうえ、右時季指定は事業の正常な運営を妨げるものとして時季更権を行使した。

(3) その後、今沢副課長は、原告高橋に対し、同月一七日午後七時三〇分頃、同月一八日午前一一時頃及び同月一九日午後五時頃の三回にわたり、同月二〇日、二一日は指定された宿直宿明勤務に就くよう命令し、また、鈴木課長は、同月二〇日午後四時一五分頃、出局してきた原告高橋から、二一日の年休時季指定を取り消すので宿明勤務を日勤勤務(午前八時三〇分から午後五時まで)に変更してもらいたい旨の申出を受けたが、宿直宿明勤務は連続した一つの勤務で分割できず、またその必要性も認められなかつたことから、これを拒否したうえ、直ちに宿直宿明勤務に就くよう命令を発した。

(4) しかし、原告高橋は、五月二〇日、翌二一日の宿直宿明勤務の就労を欠いた。

(5) 被告は、原告高橋の右欠務が、上長の命令に服さず、みだりに欠勤したもので、公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一八号に該当すると判断し、右各法条を適用し、その裁量権の範囲内で、昭和五三年六月二〇日付の本件懲戒処分、賃金カツトを行つた。

(二) 時季変更権行使の正当性

(1) 原告高橋が所属する配達課の業務内容

配達課の主たる業務は、電報の配達、電話による電報の送達、委託配達区域あて着信電報の受託者への交付、配達不能電報の保管、荒巻、榴ヶ岡駐在の電報配達業務、配達関係事故電報の処理などで、その作業を大別すると、〈1〉「外配担当」すなわち、長町、茂庭地区及び荒巻、榴ヶ岡駐在地区を除く仙台市内宛の電報を自動二輪車又は四輪車を使用して配達するもの、〈2〉「荒巻、榴ヶ岡駐在担当」すなわち、仙台電話局荒巻分局、同榴ヶ岡分局にそれぞれ駐在し、本局から送られてきた荒巻、榴ヶ岡地域宛の電報を自動二輪車又は四輪乗用車を使用して配達するもの、〈3〉「話送担当」すなわち、電話により電報を送達するほか、電報配達受託者、荒巻、榴ヶ岡駐在へ電報を電話あるいは模写機を使用して送るもの、〈4〉「交付担当」すなわち、受け付けた電報を当日配達分、翌日以降配達分に区分し、当日配達分については、外配(本局分)、荒巻、榴ヶ岡駐在、話送、委託配達分に分類し、外配分については、配達順路等の指示をして配達員へ交付し、その他の電報については話送担当へ交付するもの、〈5〉「事故担当」すなわち、宛名人の住所が不明あるいは不在等で配達できなかつたり、不在時に隣人へ照会し短期不在を確認して不在配達した電報について調査、処理を行うものなどの各担当に分かれている。

(2) 配達課の構成人員と勤務体制

配達課は、課長一名、副課長一名、運用係長四名、運用主任七名、運用係員(一般職員)三四名の計四七名で組織され、原告高橋は運用係員である。

ところで、配達課では、二四時間業務の体制が採られていることから、課員のうち、配達業務を主とする一般職員三四名と主任六名の計四〇名をA、B、C、Dの各組に分け、A、B、Cの三組(各一二名)を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の交替服務、D組を日勤、夜勤の交替服務とする勤務体制を採つている。そして、A組は運用主任六名及び経験年数がおおむね六年以上で配達業務全般に熟知している職員をもつて構成し、主として、配達区域の地理、道路状況、交通規制状況等に精通し、豊かな経験を必要とする「交付作業」を担当するほか、事故電報の処理作業にあたることとなつており、原告高橋はこのA組に所属していた。

(3) 業務上の支障の存在

原告高橋がその請求どおり年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業の正常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。

〈1〉 宿直宿明勤務は深夜帯をはさんで二日間にわたる長時間の勤務で、その間勤務者は交替で仮眠、休憩をとりながら作業をするものであるところ、服務線表上同勤務には三名の要員(A、B、Cの各組から一名ずつ)が配置され、右要員数は業務を正常に処理するため最低必要なもの(「最低要員配置」)であることから、これに欠務者を生じた場合は、必ず代務者を補充しなければならず、しかも、原告高橋の時季指定日は慶祝電報の発着が多数予想される「繁忙日」に当たつており、臨時雇いを配置して(五月二〇日は日勤に五名、夜勤に三名雇用していた。)円滑な配達業務の確保に努めていたのであつて、右宿直宿明勤務においても三名の人員を欠くことは絶対にできなかつた。

〈2〉 右宿直宿明勤務におけるA組職員は、経験の浅いB、C組職員を指導する立場にあり、その日に扱つた配達電報の通数締切作業を行うなど重大な職責を担つているところ、原告高橋の当日の担務は「交付指当」であつたため、当日勤務予定者三名中、A組に所属し、「交付担当」と「通数締切作業」を担当できる者は同原告以外におらず、当日の勤務に同原告を欠くことはできなかつた。

〈3〉 原告高橋が欠務した場合にその代務者たりえた者は、A組に所属し、当日が週休日に当たつている者のみで、それ以外の日勤あるいは夜勤勤務者を代務者に充てることはそれだけ日勤あるいは夜勤勤務者を減少させることとなり、前記のごとく甚だしい繁忙下においては全く採りえない措置であつた。

〈4〉 また、宿直宿明勤務は深夜帯をはさんだ特殊な勤務のため、前記のとおり、被告は職員の健康管理や社会生活上の便宜に配慮し、同勤務を周期的に割り当て、かつ日勤、夜勤などと相互に適切な順序に配列することにしているから、宿直宿明勤務の欠務者を補充するとしても格別の配慮を必要とするのであり、その勤務割変更は、本来厳に必要やむを得ない場合にとどめられるべきものである(被告就業規則二六条)。

〈5〉 ところで、昭和五三年三月二六日、いわゆる成田空港開港阻止闘争において、被告職員五名を含む多数の公務員、公共企業体職員が逮捕されたことを契機に、国会、新聞、その他マスコミ等から被告職員の「服務規律」のルーズさが指弾され、国民の強い批判を浴びたため、被告においては全機関に対し服務規律を正すよう副総裁指示が発せられた。これを受けて、仙台中電においても、全管理者は、五月一〇日頃佐々木栄一次長(以下「佐々木次長」という。)から服務管理の関係法規程を遵守し、なかんずく、年休については業務上の支障の有無を厳正に判断し、業務上支障がある場合には、時季変更権を行使すること、また、勤務割変更については業務上の必要を判断し、安易に勤務割変更を行つてはならないなど、厳正に服務管理を行うべきこと、また、公社職員の信用を失墜することのないよう職員に周知徹底せしめるべきこと、特に、五月二〇日に予定された過激派集団による成田空港開港阻止闘争において、再び被告職員が参加し、逮捕され、右のような批判を浴びることのないよう格段の配慮をなすべきことの指示を具体的に受けていた。

〈6〉 右〈1〉ないし〈5〉のごとき事情のもとにおいて、今沢副課長としては、代務者を確保するとすれば前記のように週休者に勤務を求める以外にないのであるが、原告高橋にやむを得ない事情があれば格別、週休者に逐一あたつて勤務割変更を行うという努力までして代務者を確保することはできないと判断したものであつて、右は当時の被告を取り巻く厳しい社会状況を考えれば、管理者として当然の所為というべく、勤務割変更を命じなかつたことには合理的な理由があつた。

このような勤務割変更をしないことに合理的な理由がある場合には、その結果として事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使も、適法、有効と解すべきである。

以上のとおり、原告高橋の本件年休請求は、勤務割変更による代務者の補充をしないことに合理的な理由があつた結果として、客観的に事業の正常な運営に支障を及ぼすおそれのあつたものであり、また、実際にも、鈴木課長は、原告高橋の欠務に対し、やむを得ず同原告の担当を交付担当から外配担当に変更し、交付担当には荒巻局の外配に予定していた但木英雄を、また荒巻局の外配には本局の外配に予定していた作山直樹を充て(五月二〇日の午後五時以降は本局の外配担当者を臨時雇い三名だけとした。)、鈴木課長が夜間の外配担当者の一員として、夜間三回にわたり、電報配達作業に従事し、また、交付担当に指定された但木はB組に所属し交付作業も未経験なため今沢副課長が但木の指導と通数締切作業を行つたほか、本来宿直宿明勤務者が行うべき配達日指定電報の配達票への記入作業、慶弔電報台紙貼付作業、電報配達受託者へ交付する作業等に従事するなどして業務の停滞を防止したのであつて、今沢副課長の時季変更権行使は適法なものであるから、同原告の無断欠勤等を理由に、裁量権の範囲内で行つた本件懲戒処分、賃金カツトに何らの違法はない。

4  原告三浦、同伊藤範彦に対する各懲戒処分等の適法性

右原告両名に対する各懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、原告三浦については昭和五三年五月二〇日、翌二一日の両日を年休とする同原告の時季指定に対し、また原告伊藤範彦については同月一九日、翌二〇日の両日を年休とする同原告の時季指定に対し、また原告伊藤範彦については同月一九日、翌二〇日の両日を年休とする同原告の時季指定に対し、被告がそれぞれ適法な時季変更権を行使したにもかかわらず、右原告らがこれを無視して右各日時の勤務を欠いたことを理由になされたものであり適法である。

(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯

(1) 佐藤恒雄電話通信課長(以下「佐藤課長」という。)は、昭和五三年五月一七日午後八時二五分頃、諸休暇申出受付簿を見て、同年五月二〇日、翌二一日につき宿直宿明勤務(二〇日午後四時から二一日午前九時まで)の指定を受けている原告三浦から右両日を年休とする時季指定がなされていることを知り、直ちに、同原告に対し、年休請求は諸休暇申出受付簿に記載するだけでなく、直接課長に申し込むべきことを注意したのち、請求にかかる五月二〇日、二一日は宿直宿明勤務にあたり「最低要員配置」であること及び繁忙日に当たるため業務に支障があることを理由に、五月二三日以降に時季指定するように告げ、時季変更権を行使した。

(2) 早坂義照電話通信課副課長(以下「早坂副課長」という。)は、昭和五三年五月一七日午後二時三〇分頃、諸休暇申出受付簿を見て、同年五月一九日、二〇日につき宿直宿明勤務(一九日午後四時から二〇日午前九時まで)の指定を受けている原告伊藤範彦から右両日を年休とする時季指定がなされていることを知り、直ちに、同原告に対し、年休請求は直接行うように注意したのち、請求にかかる五月一九日、二〇日は「最低要員配置」の宿直宿明勤務であり、業務の繁忙も予想される旨説明して指定日の変更を促したが、同原告はこれに納得しなかつたため、佐藤課長が業務に支障のあることを理由に時季指定日を同月二三日以降に変更するよう告げて時季変更権を行使した。

(3) ところが、原告両名は佐藤課長の時季変更権行使に納得せず、これを無視して欠務する態度を示したことから、同課長は、原告両名に対し同月一九日午後一時一〇分頃、さらに原告三浦に対して同日午後二時五〇分頃、それぞれ所定の宿直宿明勤務に就くよう命じた。

(4) しかし、原告両名は、いずれも前記指定された宿直宿明勤務の就労を欠いた。

(5) 被告は、原告両名の右欠務を公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一八号に該当すると判断し、右各法条を適用し、その裁量権の範囲内で、昭和五三年六月二〇日付の本件懲戒処分及び賃金カツトを行つた。

(二) 時季変更権行使の正当性

(1) 原告三浦及び同伊藤範彦が所属する電話通信課の業務内容

電話通信課の主たる業務は、加入者からの電話による発信電報の受付及び郵便局受付電報の受信(一一五扱い)、電報配達受託者、郵便局への模写、電話による電報の交付あるいは宛名人への電話による送達、一一五扱い、模写通信に対する事故処理等の附帯業務などで、その作業を大別すると、〈1〉「一一五席担当」すなわち、加入者から発信される電報を受け、その内容をタイプライターを操作して印刷し、受付担当へ送付するもの、〈2〉「受付担当」すなわち、一一五席から送られてきた電報に配達局を指定し、電報の受付時刻、発信番号を記入したうえ、模写担当扱いと検査課回しとに区分けして送付するもの、〈3〉「模写担当」すなわち、電報配達受託者及び郵便局へ電報を模写機を使用して送信するものなどの各担当に分かれている。

(2) 電話通信課の構成人員と勤務体制

電話通信課は、課長一名、副課長一名、運用係長三名、運用主任八名、運用係員(一般職員)四七名のほか、管理係長一名、管理係員二名、電報業務指導員二名の計六五名で組織され、原告三浦、同伊藤範彦はいずれも運用係員である。

電話通信課も二四時間業務の体制が採られていることから、職員をA、B、C、Dの各組に分け、A1(六名・二組)、A2(六名・二組)の四組を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の六輪番制の交替服務、B1(一二名)、B2(一二名)の二組を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の一二輪番制の交替服務、C組(一〇名)を日勤、夜勤の交替服務、D組(六名)を日勤、夜勤交替服務とする勤務体制を採つている。原告三浦、同伊藤範彦は、いずれもB1組に所属して一二輪番服務を行つている。

(3) 業務上の支障の存在

原告両名が各その請求どおりに年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業の正常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。

〈1〉 電話通信課における宿直宿明勤務は、服務線表上四名の人員(A1A2B1B2の各組から一名ずつ)が配置され、右人員は業務を正常に処理するために最低必要な「最低要員配置」であることから、これに欠務者を生じた場合は必ず代務者を補充しなければならず、しかも、両原告の年休請求期間を含む五月一八日から同月二一日にかけては多数の慶祝電報の発着信が予想され、繁忙日対策として日勤帯及び夜勤帯にも臨時雇いを配置するほか、管理職も動員して電報の円滑なそ通を期することとしていたから、原告両名の時季指定にかかる五月一九日から同月二一日の間の宿直宿明勤務にも四名の人員を欠くことは絶対にできなかつた。

〈2〉 原告両名が年休を取つた場合に代務者となりえた者は、A1A2B1B2の各組に所属し、当日が週休に当たつている者のみであつた(それ以外の日勤あるいは夜勤勤務者を代務者とすることはそれだけ当日の同勤務者を減少させることとなるから、前記のごとき甚だしい繁忙期においては全く不可能であるし、またC、D組の所属者を代務者に充てることも組の構成を考えれば論外のことであつた。)。

〈3〉 佐藤課長は、前記のとおり成田空港開港阻止闘争に参加して逮捕された職員がでたことを契機に被告の服務規律に対する厳しい社会の非難のなかで、職員の側に格別の事由もないのに代務者補充のため逐一A1A2B1B2所属の週休者にあたり、安易に勤務割の変更をすることはできないし、またそのようなことは従前の取扱いにもないことであつて、代務者の補充は困難であると判断した(ちなみに、同課長が同職に在任中、宿直宿明勤務の欠務者を補充するため勤務割変更を命じたのは、訓練、出張、病気休暇など業務上やむを得ない場合のみであつて、年休取得者の欠務補充のため勤務割変更を認めたことはない。)もので、右判断には合理的な理由があり、このように勤務割変更をしないことに合理的な理由がある場合には、その結果として事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使は適法、有効なものと解すべきである(なお、原告両名の欠勤に対しては、佐藤課長及び早坂副課長の両名がそれぞれ原告両名の業務を代行して業務への影響を最小限度に食い止めた。)。

以上のとおり、原告両名の年休請求は、勤務割変更による代務者の補充をしないことに合理的な理由があつた結果として、客観的に業務の正常な運営に支障を及ぼすおそれのあつたもので、これを理由に行使された佐藤課長の時季変更権は適法なものであるから、原告両名につき無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で行つた本件各懲戒処分及び賃金カツトに何らの違法はない。

5  原告伊藤修に対する懲戒処分等の適法性

原告伊藤修に対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、昭和五三年五月一九日についての同原告の年休の時季指定が無効、又は右時季指定に対し被告が適法な時季変更権を行使したにもかかわらず、同原告が右日時の勤務を欠いたことを理由になされたものであり適法である。

(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯

(1) 原告伊藤修は、昭和五三年五月一九日につき夜勤勤務(午後二時三〇分から同一〇時三〇分まで)の勤務割指定を受けていたところ、勤務当日である一九日の午前九時一八分頃、電話で、戸村清吉第一通信課副課長(以下「戸村副課長」という。)に対し、同日の夜勤勤務につき年休の時季指定を行い、同副課長の返答を待たずに一方的に電話を切つた。

(2) 永野信第一通信課長(以下「永野課長」という。)は、同日午前一一時三〇分頃戸村副課長より原告伊藤修の右年休請求の報告を受け、同日午後一時五分頃、電話で組合事務室にいた同原告に対し、同日の夜間帯(午後五時から同九時三〇分)に既に二名の欠務者が出ており、業務の繁忙が予想されることからこれ以上の夜間帯の欠務者発生は業務に支障を生じる旨告げて時季変更権を行使した。

(3) 原告伊藤修は右時季変更権の行使に強く反発したため、永野課長は、同日午後一時四〇分頃、同原告からの電話に対し再三にわたり所定の夜勤勤務に就くよう命じた。

(4) しかし、原告伊藤修は五月一九日の夜勤勤務の就労を欠いた。

(5) 被告は、原告伊藤修の右欠務が、公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一八号に該当すると判断し、右各法条を適用し、裁量権の範囲内で、昭和五三年六月二〇日付の本件懲戒処分及び賃金カツトを行つた。

(二) 年休時季指定の無効(就業規則三九条違反)

原告伊藤修の年休時季指定は、勤務指定当日になされたもので、交替服務に従事する職員の年休時季指定は、指定日の前々日の勤務終了時までに行うべきものとする被告就業規則三九条に違反するから本来無効である。

(三) 時季変更権行使の正当性

(1) 原告伊藤修の所属する第一通信課の業務内容

第一通信課の業務は、電報の発信局から着信局までの中継作業を各種の機器を正常に作動させながら円滑なそ通を図ることにあり、そのための主な作業として、電報中継交換装置による電報の中継通信作業、異常時や通信ふくそう時における中継ルートの設定変更等応急作業、気象電報を受信し、第二通信課へ送付すること、電報中継交換通信関係の使用済印刷電信さん孔紙の整理保存がある。そして、仙台中電が宮城、岩手、山形の三県に所在するすべての電報取扱局(加入局)及び青森、福島局(中心局)を統轄する総括局として電報そ通の宰領、取扱い上の指導的立場にあり、全国六つの総括局(札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡)及び水戸、宇都宮、長野、新潟の各中心局との間に中継線をもつていることから、第一通信課において、これらの地域と東北地方との間に発着する電報の機械中継を円滑に行うため、常に各種機器類の作動を監視し、通信を行つているものである。

(2) 第一通信課の構成人員と勤務体制

第一通信課は、課長一名、副課長一名、運用係長二名、運用主任四名、運用係員(一般職員)一三名の計二一名で構成され、原告伊藤修は運用係員である。

第一通信課も二四時間の業務体制が採られていることから、職員をABCの各組に分け、A(六名)、B(六名)の二組を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の六輪番交替服務、C組(五名)を日勤交替服務とする勤務体制を採つている。原告伊藤修はB組に所属していた。

(3) 業務上の支障の存在

原告伊藤修がその請求どおりに年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業の正常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。

〈1〉 服務線表上、第一通信課における夜間帯(午後五時から同九時三〇分まで)の人員配置は、夜勤勤務者三名、宿直宿明勤務者二名の合計五名であるところ、原告伊藤修の年休時季指定日である五月一九日は既に宿直勤務に予定の荻野春男が忌引休暇を、夜勤勤務に予定の佐藤幸作が年休を各取得していたため、午後五時以降の勤務予定者は原告伊藤修を含め夜間帯の業務を処理するのに最低必要な三名のみとなつていた(なお、戸村副課長は、五月一六日、鈴木威志に右荻野の一九日の宿直勤務の代務を命じていたが、その後永野課長と検討の結果、同日は夜勤者の退局する午後九時三〇分までは夜間帯の業務処理に必要な三名の人員が確保されており、それ以降は同副課長が補助的に代行すれば足りるとの判断から右一六日のうちに鈴木に対する代務命令を撒回し、一九日は午後九時から同副課長が右荻野の事務を代行することとしていた。)。

〈2〉 ところで、五月一九日は、仙台中電において繁忙日対策として種々の措置が講じられていた日であり、第一通信課においても通信のふくそうが予想され、それに伴つて運用する電報中継交換装置パトロール、さん孔くずの除去等の監視業務の増大、事故処理業務の増量など著しい業務の繁忙が見込まれていたのであつて、当日の夜間帯に三名の要員を欠くことは絶対に許されなかつた。

〈3〉 したがつて、原告伊藤修の欠務を認めるときは代務者を補充する必要があつたが、同原告の時季指定が当日の午前九時一八分頃になされたことから、週休者は既に同日の午後零時から終日就労義務を免除されており、他の者は既に勤務に就いているため代務者を補充することは客観的にみて全く不可能であつた。

もとより、永野課長は、原告伊藤修に年休を取得するだけの真にやむを得ない事情があつてそれが開示されるのであれば、週休者に事情を説明し無理を承知で代務を依頼するか、あるいは管理者が代行するなどして年休を認める用意もあつたのであるが、同原告は、当日直前の時季指定であるにもかかわらず、何らの事情も説明することなく、いたずらに同課長に反発するのみであつたから、右のような配慮をする余地がなく、とりわけ当時の被告の服務管理に対する厳しい批判のなかで佐々木次長より服務規律厳正化の指示がなされていた以上、代務者を補充してまで同原告の年休を承認することはできないことであつた。

〈4〉 原告伊藤修の五月一九日の欠勤に対しては、永野課長の指示により戸村副課長が佐々木次長の了解を得て、同日午後五時から同九時まで従事することになつていた局舎警備をとりやめ、同原告の夜勤勤務を代行し、各種テープ締切作業、通数チエツク作業等に従事せざるをえなかつた。

なお、本件当時、成田空港問題をめぐつて、被告の通信施設に対する破壊事件(例えば、昭和五三年三月三一日の房総半島北部一帯の一〇万回線にのぼる通信麻痺事件)が続発していて、このような不穏な情勢の中で四月二一日午後八時過ぎ頃、仙台中電に対し三・二六解放同盟なるものから、三月二六日の成田空港開港阻止事件で逮捕された被告職員に対する懲戒免職の撒回を要求し、それが容れられなければ、翌二二日に通信施設を爆破する旨のテレツクスがあつたため、同日以降同年六月までの間、仙台中電の全管理者は、連日勤務終了後も局舎内に待機したほか、数名のグループごとに交替で深夜にわたる局舎内外のパトロールにあたり、五月一九日は戸村副課長もその一員として午後九時まで局舎警備に従事し、午後九時以降は荻野春男の忌引休暇取得の欠務を補充するため、宿直宿明勤務を行う予定であつた。

以上のとおり、原告伊藤修の本件年休請求は被告就業規則に違反した無効なものであり、仮にそうでないとしても、右年休請求は客観的に事業の正常な連営に支障を及ぼすおそれのあつたもので、これを理由に行使された永野課長の時季変更権は適法なものであるから、同原告の無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で行つた本件懲戒処分及び賃金カツトに何ら違法はない。

6  原告渋谷及び同鈴木に対する各懲戒処分等の適法性

原告渋谷に対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、同原告の昭和五三年五月二一日の勤務(午前八時三〇分から午後四時三〇分まで)を被告が祝日代替休暇(以下「祝日代休」という。)として設定しなかつたにもかかわらず、同原告が右勤務を欠いたこと、及び右両原告から申出のあつた原告渋谷の同月二二日午前九時から午後五時三〇分までの勤務と、同鈴木の同日午後二時から午後一〇時までの勤務との交換、変更(以下「勤務交替」という。)を被告が承認しなかつたにもかかわらず、原告渋谷が指定された所定の勤務の一部を欠いたことを理由になされたものであり、原告鈴木に対する懲戒処分及び賃金カツトは、被告が右両原告より申出のあつた前記勤務交替を承認しなかつたにもかかわらず、原告鈴木が所定の勤務のうち午後五時四〇分から同一〇時までの間の勤務を欠いたことを理由になされたものであり、いずれも適法である。

(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯

(1) 斎藤繁信検査課長(以下「斎藤課長」という。)は、昭和五三年五月一五日、原告渋谷から同月二一日の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの勤務を祝日代休に、また右原告両名から同月二二日の勤務につき両原告の勤務割(原告渋谷は午前九時から午後五時三〇分まで、同鈴木は午後二時から同一〇時まで)を交換変更する勤務交替の各申出が諸休暇申出受付簿に記載されているのを知つた。

(2) そこで、斎藤課長は、直ちに原告両名に対し、右各申出は直接課長に申し出るように注意したのち、五月一八日から二二日までの間は安易に祝日代休や勤務割変更をしないよう指示されていること及びやむを得ない理由があれば検討する旨を伝えた。

(3) これに対し、原告両名は、「理由を言う必要はない。」との一点張りでその理由を明らかにしなかつたので、同課長は、祝日代休の申出については、五月二一日は仙台市内の結婚式場で予定されている結婚式が四八組もあることから業務の繁忙が予想され、臨時雇いを二名雇用するなどしてそ通対策を実施していた等の諸般の事情を考慮のうえ、その場でこれを拒否し、また勤務交替の申出についてもその必要を認めずこれを拒否して、原告両名に所定の勤務時間帯に就労するよう命じ、原告両名に対し五月一七日午後五時一一分頃と同月一九日午前八時五二分頃の二回にわたり、さらに原告渋谷に対しては同日午後四時二七分頃にも前同様の就労命令を発した。

(4) 原告渋谷は、五月二一日の所定の勤務及び同月二二日の所定の勤務のうち午前九時から午後二時までの五時間及び午後五時から同五時三〇分までの三〇分間について就労を欠き(早退、遅刻)、また、原告鈴木は、同月二二日の所定の勤務のうち、午後五時四〇分から同一〇時までの四時間二〇分について就労を欠いた(早退)。

(5) 被告は、原告両名の右欠務が公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一八号に該当するものと判断し、右各法条を適用し、裁量権の範囲内で、昭和五三年六月二〇日付本件各懲戒処分及び賃金カツトを行つた。

(二) 祝日代休不承認の正当性

(1) 祝日代休制度

被告は、職員の休日に関し、就業規則三三条で「職員は、国民の祝日に関する法律(昭和二三年法律第一七八号)第三条に規定する休日に休日が与えられる」旨規定し、祝日が被告の付与をまつてはじめて休日となることを明らかにしており、また祝日と職員の週休日等が重複した場合についての取扱いにつき、昭和五〇年一〇月二七日全電通労組との間で労働協約(五〇中了第一〇一七号)を締結し、日曜日及び土曜日を週休日としている者以外の者については「毎年度四月一日以降祝日と週休日等が重複した場合は、その祝日順に年度三日を限度とし、原則として、三ヶ月以内に代替休日(祝日代休)を設定する」としている。このように祝日代休は被告の付与(設定)をまつてはじめて休日となるものであるが、これを設定するか否かは、使用者たる被告の労務指揮権の範囲に属する問題であるから、被告は右協約の制限内で裁量的に祝日代休を設定することとなる。すなわち、職員から祝日代休の申出を受けた所属上長(各課長)は、その職員の担当する職務の性質、内容、業務の繁閑、代替要員の要否など諸般の事情を勘案したうえ、自らの管理責任において祝日代休を決定するものである。ところで、従来検査課においては業務上特に支障がなければ職員の希望日に祝日代休を設定していたが、所属上長がこれを設定するにあたり職員の希望日に拘束されるいわれはなく、希望日はあくまでも祝日代休を設定するにあたつての一事情として考慮されるにすぎないものである。

(2) 祝日代休不承認の理由

〈1〉 原告渋谷が所属する検査課の主たる業務は、着信電報の検査、送信済電報原書の取り集め及び検査、電報の配信、電報原書の保存、電報の事故処理などで、同課は仙台中電内に発着する電報を集配する中心的部門を果たしており、その業務の停滞は、仙台中電全体の電報サービスに重大な影響を及ぼすこととなる。

〈2〉 検査課は、課長一名、運用係長一名、運用主任二名、運用係員(一般職員)一二名の計一六名で組織され、原告渋谷は運用係員である。

なお、検査課も二四時間の業務休制が採られていることから、職員一二名を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の一二輪番交替服務、二名を日勤交替服務、一名を日勤服務とする勤務体制を採つており、原告渋谷は一二輪番の交替服務に従事していた。

〈3〉 原告渋谷が祝日代休として希望した昭和五三年五月二一日は、前記のとおり多数の慶祝電報が発着すると予想され、検査課においても、当日の日勤帯には服務線表上の要員数四名に加え二名の臨時雇いを雇用するなどのその通対策を実施していた。

〈4〉 しかるところ、当時佐々木次長から服務規律の厳正化の指示を受けていた斎藤課長は、右のように五月二一日が業務の繁忙を予想される以上、原告渋谷に特別の事情もないのに同日を祝日代休とすることは到底できないと判断したもので、同課長の判断には合理的な理由があるから、右祝日代休を設定しなかつた措置に何ら違法はない。

(三) 勤務交替不承認の正当性

(1) 勤務交替の運用実態

勤務割とは、前記のとおり当該職員の所属長が、服務線表に基づいて当該職員の勤務すべき日における始終業の時刻を特定することによつて具体的服務を指定することである。また、勤務割変更も所属長がさきに指定した勤務割を勤務の始終業時刻が異なる他種の勤務に変更することをいうものであるから、勤務割と同様、使用者として本来有する労務指揮権(業務命令)を行使するものであり、使用者の専権に属するものであることはいうまでもない。そして、このことは、所属長が、当該職員から交替要員として特定職員の同意を得ている旨を付し口頭あるいは所定の記録簿への記入によつて勤務割変更の申出を受けた勤務交替の場合であつても変わるところはない。

したがつて、所属長は、職員からの勤務交替の申出を受けた場合にもこれに拘束されるいわれはなく、これに応じて勤務割変更を発するか否かは、挙げて所属長の裁量にゆだねられている。所属長は、右申出を受けた場合業務運営及び要員配置の状況、当該職員の事情(技能、経験、申出の動機ないし必要性)、交替要員の必要性、交替要員が必要なときは所要の技能、経験を有する職員を勤務割変更によつて求めうるかどうか(「前日」以降においては、その職員の「同意」を得られるかどうか。)など諸般の事情を勘案し、右申出に応じて勤務割変更命令を発するか否かを決することになる。そして、右申出に応じる場合、所属長は申出者及び交替要員双方に口頭あるいは所定の記録簿に「認印」を押捺することによつてはじめて勤務割変更(業務命令)の効果が生ずるものであつて、これがなされない限り、申出者は当初の勤務割で労務に服すべき義務を負うのである。

(2) 本件勤務割変更不承認の理由

〈1〉 原告鈴木は、同渋谷と同様、検査課の運用係員として一二輪番の交替服務に従事していた。

〈2〉 斎藤課長は、前記のとおり、成田空港開港阻止闘争に関連して佐々木次長より、安易な勤務割変更を行つてはならないなど服務規律の厳正化についての具体的な指示を受けていたが、右原告両名から勤務交替の申出を受けた際、右申出にやむを得ない事情があればこれを承認しないわけにもいかないとの意向のもとに、原告両名に対し、何回となくその事情を問いただしたが、原告両名は一向にその理由を明らかにせず、特に原告鈴木においては、同人の申出どおりの勤務交替を認めるときは、同人の五月一八日から同月二二日の間の連日の勤務割を変更したうえで、さらにそれを変更することになることから、このような勝手な勤務交替の申出は到底承認できないと判断し、原告両名の右申出を承認しなかつたもので、右措置は、充分合理的で、所属長としての裁量権の範囲内に属し、何ら違法なものではない。

以上のとおり、原告渋谷から申出のあつた祝日代休を設定せず、また、同原告及び原告鈴木から申出のあつた勤務交替を承認しなかつた斎藤課長の措置はいずれも正当なものであるから、原告両名に対し、それぞれ無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で行つた本件懲戒処分、賃金カツトに何らの違法はない。

四  被告の抗弁に対する原告らの認否及び主張

1  抗弁1の(一)は認め、同(二)は争う。

2  抗弁2の(一)ないし(三)については、服務線表に基づく個々の職員の具体的勤務割の指定が職員の技能、経験等を勘案してなされているか否かは知らないが、その余は認める。職員の具体的な勤務割を定めるについては、職員の意見も重視され、勤務割の指定に反映されているものである。

3  抗弁3(原告高橋関係)について

(一) 抗弁3の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)は認める。同(2)については、今沢副課長が時季変更権を行使したこと(但し、行使した時刻は五月一七日午後七時三〇分頃であり、同日午後五時頃の時点では保留とされていた。)は認め、その余は否認する。同副課長は、五月二〇日に開港が予定されていた成田空港の開港阻止闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日までは勤務割変更や祝日代休等は認めない」、「年休を請求するならば理由を言え」等と理不尽な対応をしたあげく時季変更権を行使したもので、事業の正常な運営に支障を与える云々ということはこじつけにすぎない。

同(3)については、鈴木課長が原告高橋の勤務割変更の申出を拒否した点は認め、その余は否認する。同(4)は認める。但し、五月二一日は午前八時三〇分から午後五時まで日勤勤務に従事した。同(5)は争う。

(二) 抗弁3の(二)の(1)は認める。同(2)については、A組の構成が経験年数がおおむね六年以上で配達業務全般に熟知している職員で構成されているとの点を否認し、その余は認める。同(3)は、〈1〉を認め、その余は争う。

(三) 原告高橋の主張

(1) 代務者確保

宿直宿明勤務の人員配置は最低要員配置であるから、宿直宿明勤務予定者が年休を取得するためには勤務割変更による代務者の補充が必然的に要請されるが、このような場合、被告には、事業の正常な運営に支障がない限り代務者を捜して勤務割変更を命ずべき義務がある。確かに勤務割変更は業務命令の一つであり、使用者の権限に属するものであるが、年次有給休暇制度が存在する以上、使用者の基本的専権事項である従業員の雇用についてさえ年休取得を可能ならしめるだけの要員の採用確保が義務づけられているわけであつて、それと同様に、常日勤服務あるいは交替服務といつた服務形態を問わず平等に年休の取得を可能ならしめるためには、最低要員配置たる宿直宿明勤務に際し勤務割変更による代務者の確保を制度として保障することが使用者に義務づけられていることは明らかで、逆からいえば、勤務割変更その他による代務者確保の措置が制度上保障されてはじめて、一名の欠員も許されないという最低要員配置の勤務形態を設定することが使用者に許されるのである。そして、このことは、被告の東北電気通信局職員部が作成した労務関係法規集においても、その質疑応答集のなかで、宿直宿明服務における年休付与方法として「他の服務に勤務割変更をするよう努められたい」旨述べて代務者の確保を命じていることからも明らかである。

したがつて、原告高橋の年休時季指定に対し、被告が服務規律の厳正化を理由に代務者確保の制度を全く運用しないまま時季変更権を行使したのは、その要件を欠く違法、無効なものである。

(2) 代務者確保の容易性

原告高橋の代務者としては、左の表の各職員に代務を命じることが可能であつたし、現に、佐藤政晴は、原告高橋や今沢副課長に同原告の代務に応じても良い旨話をしていた。

原告高橋の代務可能者

(「本来の指定勤務時間」欄中のAは午前、Pは午後を意味する。)

氏名

本来の指定勤務時間

五月二〇日

五月二一日

佐藤善助

A八時―P四時

A八時―P四時半

大河原栄治

A八時半―P四時半

週休

相原正夫

A八時半―P五時

「休日」

佐藤政晴

週休

P三時―P一一時

高橋喜久雄

週休

週休

菅原博

週休

P三時―P一一時

遠藤勝則

A八時―P四時

A八時半―P五時

伊藤伊勢男

A八時半―P五時

週休

阿部泰弘

P二時―P一〇時

A八時―P四時

郷家信之

A八時―P四時

P三時―P一一時

塚原正俊

週休

週休

駒木幸夫

週休

P二時―P一〇時

柿崎勇二

A九時―P五時半

A八時―P四時

皆川義男

P三時―P一一時

A八時―P四時半

佐藤秀男

P二時―P一〇時

A九時―P五時半

斎藤正寿

P三時―P一一時

A一〇時―P六時

佐藤勝行

週休

週休

小柳俊一

週休

週休

高橋憲司

週休

週休

稲村彰一

週休

P二時―P一〇時

なお、被告は、A組に所属する原告高橋の当日の担務が交付作業及び通数締切作業であつたから、A組以外の者では代務者として不適当である旨主張するが、交付、通数締切作業はそれほどむずかしい作業ではなく、B組の者でも充分行えるものであるし、そもそも、宿直宿明勤務者の本来の職務は外配担当であり、交付担当は夜勤のA組、通数締切作業は夜勤の係長又はA組の担当であつて(したがつて、宿直宿明勤務者のなかにA組の者が必ずいなければならないものではなく、本件後においても、宿直宿明勤務にA組の者がいなかつた例がある。)、原告高橋が当日これらの勤務を命じられていたこともない。

要するに、被告の時季変更権の行使は、被告職員を成田空港開港阻止闘争に参加させないという理由のみからなされた違法、無効なものである。

4  抗弁4(原告三浦、同伊藤範彦関係)について

(一) 抗弁4の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)、(2)については、佐藤課長が原告両名の年休時季指定に対し時季変更権を行使した点は認め(但し、原告三浦は五月一七日午後四時一〇分頃、原告伊藤範彦は同日午後一時二〇分頃にそれぞれ諸休暇申出受付簿に記載して年休の時季指定をし、これに対し同課長が時季変更権を行使したのは、原告三浦に対しては同日午後八時二五分頃、原告伊藤範彦に対しては同日午後五時頃である。)、その余は否認し、同(3)及び(4)は認める。同(5)は争う。佐藤課長は、五月二〇日に開港が予定されていた成田空港の開港阻止闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日までは勤務割変更や祝日代休等は認めない」「年休を請求するならば理由を言え」等と理不尽な対応をしたあげく、時季変更権を行使したもので、業務の正常な運営に支障を与える云々ということはこじつけにすぎない。

(二) 抗弁4の(二)の(1)、(2)は認める。同(3)の〈1〉は認め、その余は争う。

(三) 原告両名の主張

(1) 代務者確保

原告高橋の主張欄(1)と同一

(2) 代務者確保の容易性

右原告両名の代務者としては、左の表の各職員に代務を命じることが容易に可能であつた。

原告三浦の代務可能者

(「本来の指定勤務時間」欄中のAは午前、Pは午後を意味する。)

氏名

本来の指定勤務時間

五月二〇日

五月二一日

中村弘幸

週休

P二時半―P一〇時半

B1―1

柿田順

P二時―P一〇時

A八時半―P五時

B1―9

田中孝一

A八時半―P五時

A八時―P四時半

B1―11

楳原茂

週休

P二時半―P一〇時半

B2―1

浅野博友

A八時―P四時半

週休

B2―12

鶴田一也

週休

(週休)

D―1

相沢雅宏

A八時―P四時半

週休

D―6

佐藤晃

A八時―P四時

週休

C―6

大立目正之

A九時―P五時

A八時半―P五時

C―6

後藤清彦

(週休)

A九時―P五時

C―2

沼田利彦

(週休)

P二時―P一〇時

B1―8

原告伊藤範彦の代務可能者

氏名

本来の指定勤務時間

五月一九日

五月二〇日

黒田威宣

週休

P二時半―P一〇時半

A1―1

石垣鉄雄

週休

P二時半―P一〇時半

A2―3

中村弘幸

A八時―P四時

週休

B1―1

二瓶保夫

週休

P二時半―P一〇時半

B1―2

田中孝一

A八時半―P五時

A八時半―P五時

B1―11

楳原茂

A八時―P四時

週休

B2―1

佐藤文男

週休

P二時半―P一〇時半

B2―2

浦沢昌紀

P二時半―P一〇時半

A一〇時―P六時

B2―3

渡部隆一

A八時半―P五時

A八時半―P五時

B2―11

浅野博友

A八時半―P五時

A八時―P四時半

B2―12

鶴田一也

A八時―P四時半

週休

D―1

相沢雅宏

A八時半―P五時

A八時―P四時半

D―6

佐藤晃

A八時半―P五時

A八時―P四時

C―6

後藤清彦

週休

(週休)

C―2

柿田順

(週休)

P二時―P一〇時

B1―9

5  抗弁5(原告伊藤修関係)について

(一) 抗弁5の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)及び(2)のうち、原告伊藤修が五月一九日につきその当日に年休の時季指定をしたこと、同日の夜間帯の勤務予定者が五名であり、内二名の欠務者がいたこと、永野課長が時季変更権を行使したことは認めるが、その余は否認し、同(3)及び(4)は認める。同(5)は争う。同課長が時季変更権を行使したのは、被告職員を成田空港開港阻止闘争に参加させまいとする被告の方針の一つの表れであり、事業の正常な運営に支障を及ぼす云々ということはこじつけにすぎない。

(二) 抗弁5の(二)は争う。被告主張の就業規則の定めが存在することは認めるが、仙台中電における右規定の運用の現実は被告の主張と全く異なり、従前から年休時季指定の約八割以上は前日又は当日になされていた。

(三) 抗弁5の(三)の(1)及び(2)は認める。同(3)のうち、〈1〉については、五月一九日の夜間帯につき夜勤者一名が年休、宿直者一名が忌引休暇のため欠務していたことは認めるが、その余は否認する。同〈2〉ないし〈4〉は否認する。

(四) 原告伊藤修の主張

(1) 第一通信課においては、夜間帯に夜勤勤務者が一人もいなくなるような年休が従前から認められてきており、夜間帯に三名の人員が絶対必要なわけではない。

(2) 仮に、夜間帯に三名の人員配置が必要であつたとしても、荻野春男の代務者として戸村副課長が勤務することになつていたから、原告伊藤修が年休を取得したとしても三名の要員配置に欠けることはなく、何ら業務に支障を及ぼすことはなかつた。

(3) また仮に、戸村副課長の代務が被告主張のように午後九時からのものであつたとすれば、最低要員配置で必ず代務者を確保しなければならない宿直勤務の一部に代務者を確保せず、しかも、本来管理職としての業務を遂行すべき者が一般職員の職務を代行することとしたわけであるから、右の処置は、被告自らが事業の正常な運営に反する状態を職場に作り出したものである。そして、このような正常でない状態は、荻野春男の代務者が見つからないという合理的な理由から生じたものではなく、たまたま当時戸村副課長が管理者の一員として局舎警備のため遅くまで残ることになつていたところ、永野課長から同副課長の自宅が遠いので泊まつた方が良いといわれたという業務上の必要性とは全く関係のない理由によるものである(その結果、同副課長はいつたん鈴木威志に荻野春男の代務を命じておきながらこれを取り消している。)。

このように、被告自らが何ら合理的な理由もないまま異常な状態を作り出しておきながら、原告伊藤修の年休取得により夜間帯の最低配置定員三名を欠くことを理由に(荻野春男の代務者が適正に補充されていれば、当日の夜間帯には同原告を除いても三名の職員((宿直勤務者二名、夜勤勤務者一名))が確保されていた。)時季変更権を行使するのは、権利の濫用であり、右時季変更権の行使は、違法、無効なものである。

6  抗弁6(原告渋谷、同鈴木関係)について

(一) 抗弁6の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)ないし(3)のうち、原告渋谷が祝日代休の請求をしたこと(但し、右請求は、五月一二日諸休暇申出受付簿に記載して請求している。)、右原告両名が勤務交替の申出をしたこと、斎藤課長が右申出をいずれも拒否した点は認め、その余は否認する。同(4)は認める。同(5)は争う。なお、右原告両名の勤務交替の申出は、原告鈴木が五月二二日に組合の職場委員会に出席する等の事由があつたため原告渋谷に勤務交替を頼み、同原告の同意を得て行つたものである。

(二) 抗弁6の(二)の(1)については、休日及び祝日代休に関し被告主張の就業規則及び労働協約が存在することは認め、その余は争う。同(2)の〈1〉ないし〈3〉は認め、〈4〉は争う。

(三) 抗弁6の(三)の(1)については、勤務割の概念及び勤務交替が被告の承認によつて効力を生じるものであることは認め、その余は争う。同(2)の〈1〉は認め、〈2〉は争う。

(四) 原告渋谷及び同鈴木の主張

(1) 祝日代休の運用に関する労使慣行の存在

仙台中電においては、従前から、職員が日時を指定して祝日代休を申し出た場合にはこれが業務に支障を及ぼすものでない限りそのまま承認されてきていたもので、祝日代休の申出は、年休の時季指定とは制度上異なるものの、これと同様に運用する慣行が労使間に形成されていたから、祝日代休の設定は当然右慣行に従うべきである。

(2) 勤務交替の運用に関する労使慣行の存在

仙台中電においては、従前から、勤務交替は職員相互の了解のもとに行われていたことから、一般の勤務割変更の場合に必要とされる組合への通知、勤務時間の調整といつた制約がなく、また配置人員数にも影響がないため、業務に支障を及ぼすような特別な事情(同一人が長期間休暇をとらない結果が生じたり、長期間宿直宿明勤務が連続する等)がない限り、当該勤務交替の理由を開示するか否かにかかわらず承認されることとなつており、それは労使間に慣行として確立されていたから、被告は、原告渋谷、同鈴木からの本件勤務交替の請求に関しても右慣行に従つた処理をすべきであつた。

(3) 被告の本件祝日代休の設定拒否及び勤務交替の不承認は、前記成田空港開港阻止闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日までは勤務割変更や祝日代休等は認めない」等の理不尽な対応をしたあげく、何ら業務に支障がないのに右慣行を一方的に無視して行つたものであるから、原告両名がこれに従わなかつたからといつて、それを理由に懲戒処分に付することは、明らかに処分権の濫用といわなければならない(なお、原告両名からの勤務交替の申出が原告鈴木の都合((五月二二日午後に予定されていた組合集会に参加するための組合休暇を取得する便宜))によるものであることは被告も充分認識していたのであり、それにもかかわらず、被告は、全くの偏見から前日の原告渋谷の祝日代休とセツトにして右勤務交替の申出を拒否したものである。)。

五  原告渋谷及び同鈴木の主張に対する被告の反論

祝日代休の設定及び勤務交替の運用に関して、右原告らの主張するような労使慣行は存在しない。

特に勤務交替に関しては、勤務時間の長短の調整がなされていないため。これが頻繁に行われた場合、労働基準法(以下「労基法」という。)所定の労働時間を超えることもありうるのであつて、右原告らが存在すると主張する慣行は同法に抵触するおそれのあるものであり、また仮に右慣行が存在するとすれば、職員は指定された勤務割が何であれ自己の欲するときに、その欲する時間帯の勤務を行い、また就労を免れるというきわめて不合理な結果を招来させ、かくては使用者の固有の権利である労務指揮権ないしは職場管理権を全く奪うことになり、この点からしても右慣行の存在は認められない。

また、右勤務交替が、原告鈴木の組合の職場委員会に出席する等の事由によるものであつたとしても、右事由を斎藤課長が知つていたか否かにかかわらず、勤務交替をしなければ職場委員会に出席できないというものではないし、勤務時間の全部ないし一部の時間帯において職場委員会が開催されるのであれば、その間必要によつて全一日ないし半日の組合休暇を取得すれば足りることである(なお、組合休暇は無給であるが、その間の賃金相当額が組合から補填される。)。

第三証拠 <略>

理由

一  原告らの身分及び本件懲戒処分等の存在

被告の性格及び原告らの身分に関する請求原因1及び2の事実並びに本件懲戒処分及び賃金カツトの存在に関する同3の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件懲戒処分及び賃金カツトの適法性について検討する。

1  本件紛争の背景

原告らの勤務する仙台中電の所掌事務、組織、機構及び勤務体制に関する被告の抗弁2の事実(但し、服務線表に基づく個々の職員の具体的勤務割指定が職員の技能、経験等も勘案してなされているとの点は除く。)と、原告らが、被告から無断欠勤と扱われた日又は時間帯に上長の就労命令を無視して就労しなかつたこと自体については、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、本件懲戒処分等は、被告及び原告ら双方の主張から明らかなように、原告らからの年休時季指定、祝日代休の請求ないしは勤務交替による勤務時間変更の申出の処理をめぐる対立に端を発するものであるところ、後記認定のとおり、これまで仙台中電においては、右の処理をめぐつて労使間に紛争の発生をみるようなことは殆んどなかつたのであり(職員側の申出がそのまま受容されることが多かつた。)、本件紛争は、成田空港の再開港を間近に控え、仙台中電が年休、祝日代休及び勤務交替を従前より制限的に運用する方針を採つたことに多く起因することを否定できない。

すなわち、成立に争いのない<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右各証言中、同認定に反する部分は措信することができず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

〈1〉  かねて政府が建設を進めていた成田空港(新東京国際空港)の開港日(昭和五三年三月三〇日)を間近に控えた同月二六日、右開港に反対する集団が、同空港の管制搭設備等の破壊を伴う違法な開港阻止闘争を激しく展開し、火災びんの使用等の処罰に関する法律違反、兇器準備集合罪、公務執行妨害罪、傷害罪等の各罪による逮捕者を多数出すまでに至つたが、右逮捕者の多くが公務員ないしは公共企業体の職員であつたことから(そのうちには被告の職員が五名含まれていた。)、国会をはじめとしてマスコミ、一般世論は、被告を含めた公法人の労務管理のあり方に強い非難を浴びせるところとなつた。

〈2〉  右開港阻止闘争の影響を受け、成田空港の開港は同年五月二〇日に延期されたが、右再開港を控え、内閣官房長官は、郵政大臣らに宛て、異例の「公務員及び公共企業体職員が再びこの違法な開港阻止闘争に参加することのないよう職員の管理、監督に十分配慮願いたい」との要請文を発し、被告においても(同総裁に宛て郵政大臣官房電気通信監理官から職員の管理監督について遺漏のないよう更に配意されたい旨の通知がなされた。)、同月九日には副総裁名で各電気通信局長に対し、「かかる不祥事の再演防止と公社としての社会的責任等の観点から更に職員の日常管理について十分留意するとともに、服務規律の厳正化がはかられるよう切望する」との指示を発しており、各電気通信局長は管内部局に右指示の伝達、徹底を図つていた。

〈3〉  従来、年休の時季指定、祝日代休の請求及び勤務時間変更の申出については、職員側の申出どおり処理され、その処理をめぐつて労使間で紛争が発生するということは殆んどなかつた仙台中電においても、これらの指示のもとに、同月一〇日、佐々木次長が各課副課長以上の管理職全員を集め、右上部機関からの指示事項を説明するとともに、職員の年休時季指定については、所定の手続(本人から直属上長への直接申入れ)を履践させ、これに対する時季変更権の行使は、業務への支障のおそれを厳正に判断して行うこと、職員からの申出による勤務割変更の承認及び祝日代休の設定についても業務上の必要性を厳正に判断し安易に応じないこと、特に成田空港開港反対派による違法な開港阻止闘争が予想される同月一八日から二二日までの間は、職員が右違法な開港阻止闘争に参加するのを極力防止するため、職員が同闘争に参加しないことが明らかなような場合を除き、原則として、勤務割の変更、祝日代休を認めないこととする旨の指示(以下、佐々木次長によるこの指示を便宜「服務規律厳正化の指示」と呼称する。)がなされた。

〈4〉  そして、仙台中電における年休、祝日代休及び勤務割変更に関する右のような処理方針は、同月一二日頃、佐々木次長らから口頭で全電通仙台中電分会書記長らにも伝えられ、また、各職員に対し、宮城電気通信部長外二名の連名による「職員各位にのぞむ」と題する書面(内容は、主に被告職員としての高度の公共的使命を充分自覚し、違法な空港開港阻止闘争に参加することの絶対にないよう強く要請したもの)及び仙台中電庶務課長名義の「お知らせ」と題する書面(内容は、年休の時季指定及び諸休暇等の請求は本人が直接直属上長に申し出てこれをすることの徹底を要請したもの)を各掲示した。

右認定事実から明らかなように、仙台中電においては、成田空港の再開港を間近に控え、職員が再び違法な開港阻止闘争に参加する事態の発生を憂慮し、極力これを防止するため、年休、祝日代休、勤務割変更の処理を厳格に管理することにしたもので(とくに五月一八日から同月二二日については原則として祝日代休、勤務割変更を認めないという極めて制限的なもの)、要するに、職員の企業外の非行を事前に防止することを眼目として年休等の申出を処理する方針を採つたことから、これまでどおりに、年休の時季指定をし、祝日代休及び勤務交替を求める原告らとの間に緊張対立を生じさせ、本件紛争の発生をみるに至つたと認められるのである。以下、被告の抗弁の当否を各原告ごとに検討する。

2  原告高橋、同三浦、同伊藤範彦関係

右原告らは、被告から無断欠勤とされた各欠勤は、適法な年休取得によるものである旨主張するところ、被告は、原告らの時季指定に対して適法な時季変更権を行使したにもかかわらず原告らは無断欠勤した旨主張しているから、原告らに対する懲戒処分及び賃金カツトの適法性の有無はいつにかかつて時季変更権の行使の適法性如何にある。

(一)  以下の事実は当事者間に争いがない。

〈1〉 原告高橋の所属する配達課の業務内容、構成人員が被告主張のとおりのものであること、配達課では二四時間の勤務体制が採られていることから、課員のうち配達業務を主とする一般職員三四名と主任六名をA、B、C、Dの各組に分け、A、B、Cの三組(各組一二名)を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の交替服務に、D組を日勤、夜勤の交替服務とする勤務体制を採り、原告高橋はA組に配属されていたこと。

〈2〉 原告三浦及び同伊藤範彦の所属する電話通信課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関する抗弁4の(二)の(1)及び(2)の事実。

〈3〉 原告高橋は、昭和五三年五月二〇日、翌二一日の勤務を宿直宿明勤務(二〇日午後四時から二一日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出受付簿に右両日を年休とする旨記入し、これを今沢副課長に提出して右両日につき年休の時季指定を行つたが、同副課長は同日時季変更権を行使したこと。

〈4〉 原告三浦は、昭和五三年五月二〇日、翌二一日の勤務を宿直宿明勤務(二〇日午後四時から二一日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出受付簿に右両日を年休とする旨記入し、年休の時季指定をしたが、佐藤課長は同日時季変更権を行使したこと。

〈5〉 原告伊藤範彦は、昭和五三年五月一九日、翌二〇日の勤務を宿直宿明勤務(一九日午後四時から二〇日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出受付簿に右両日を年休とする旨記入し、年休の時季指定をしたが、佐藤課長は同日時季変更権を行使したこと。

(二)  「本件紛争の背景」に関する前記認定事実と右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右各証言中、同認定に反する部分は措信することができず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

〈1〉 右原告らが勤務割指定を受けていた宿直宿明勤務は、勤務時間が夜から朝にわたる特殊な服務のため、服務線表上その配置人員を、従来の業務量に照らしこれを支障なく処理するために必要最少限度の員数にとどめており(いわゆる「最低要員配置」。配達課は三名、電話通信課は四名と定められていた。)、これに欠務者を生じる場合は、当然事業の正常な運営に支障を来すおそれがあるものとして、他の職員の勤務割を変更するなどの方法により代務者を補充するのを原則としていた(宿直宿明勤務が「最低要員配置」であり、これに欠務者を生じた場合、原則として代務者を補充しなければならなかつたことについては、当事者間に争いがない。)。

〈2〉 右原告らが年休の時季指定をした宿直宿明勤務も、その配置人員は服務線表上の「最低要員配置」となつていた。

〈3〉 原告高橋の年休に関し決裁権限を有していた今沢副課長並びに原告三浦、同伊藤範彦の各年休に関して決裁権限を有していた佐藤課長は、いずれも佐々木次長から服務規律の厳正化に関する指示を受けていたところ、右原告らの年休時季指定日は、右指示において原則として勤務割変更等の措置を講じてはならないとされていた五月一八日から同月二二日の期間中に当たり、しかも、原告らの年休利用目的も確知しえなかつた(原告らは自発的に利用目的を明らかにするようなことはなかつた。)ことから、あるいは原告らが年休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、この時期に年休を取得させるのは妥当でないと判断して、<他の職員の勤務割変更などによる代務者確保の能否を全く考慮せず、むしろ意識的にこれを拒否して宿直宿明勤務が「最低要員配置」で服務線表上の人員を欠くことができないこと、>しかも、右原告らの時季指定日は、結婚シーズンで多数の慶祝電報が発着し、繁忙が予想される五月のなかでも「大安」の土曜日(二〇日)、日曜日(二一日)と、とりわけ多数の結婚式が予想される繁忙期で「最低要員配置」は絶対に欠くことができないとして、時季変更権を行使した。

〈4〉 その後、原告高橋は五月二〇日午後四時一五分頃鈴木課長に翌二一日の年休の時季指定を取り消すので同日の宿明勤務を日勤に勤務割を変更してもらいたい旨申し入れたが、同課長は、宿直宿明勤務は一つの連続した勤務で原則として分断できず、同原告の二〇日の宿直勤務を年休として認めていない以上、翌二一日は宿明勤務に就かなければならないとの考えから、右申出を受け入れず、直ちに当日の宿直と翌二一日の宿明勤務に就くよう命じた。

(三)  右認定事実によれば、今沢副課長、佐藤課長は、原告らが年休の時季指定をなすにあたつてその利用目的を明らかにしなかつたことなどから、あるいは原告らが年休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、これを極力防止するためには年休を制限することもやむを得ないとの判断のもとに、勤務割変更による代務者補充の措置を拒否したうえで、宿直宿明勤務が「最低要員配置」であることを主たる理由に時季変更権を行使したことが認められる。

ところで、労基法三九条が定める労働者の年次有給休暇の権利(年休権)は、同条一項、二項の要件を充足することにより法律上当然に発生し、労働者が右要件の下に年休の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の「事業の正常な運営を妨げる」事由が存在し、かつ、これを理由に使用者が時季変更権を行使しない限り、労働者の当該労働日の就労義務は消滅するものであり、また、年休の利用目的は労基法の関知しないところであるから、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である。とするのが法の趣旨であると解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷判決昭和四八年三月二日民集二七巻二号一九一頁、二一〇頁)。

そして、右のような労働者の権利としての年休制度を、使用者の事業運営上の利益との調和のもとに実質的に保障するとの観点に立てば、単なる繁忙とか人員不足との理由が時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するものでないことは明らかであつて、使用者は、本来、予想される業務量との対応において、労働者が年休を取つたとしても直ちに事業の正常な運営に支障を来さないだけの人員を配置しておく義務を負担しており、その上で、事前予測の困難な事態の発生など特別な場合にはじめて時季変更権の行使が許されると解すべきこととなる。したがつて、使用者が業務体制等の理由からやむを得ず日常の業務を支障なく処理するに必要最低限の人員しか配置しえず、誰か一人が年休を取得すれば直ちに事業に支障を来すような業務形態を採用した場合においては、あらかじめ代務者を確保しておくか、少なくとも年休時季指定のあつた都度代務者を確保するために最大限の努力を払うことが使用者に対する法的義務として当然に要求されてくるのであり、このことは、被告の宿直宿明勤務のように」最低要員配置」とすることに職員側の同意があつた場合においても格別異とする理由はない。現に被告自身、就業規則及び同規則の解釈例規(<証拠略>)において、交替服務に従事する職員についてのみ、職員の前々日の勤務終了時までは被告においてその勤務割を自由に変更できるとの規定(就業規則二六条、なお、それ以後の時点での変更は職員の同意を必要とする((右解釈例規三〇三頁))。)に対応させ、その年休時季指定を休暇の前々日の勤務終了時までに行わなければならない旨規定していることが認められるのであるが(就業規則三九条、同解釈例規三一一頁)、このような規定は、時季変更権行使の要否を判断するための時間的余裕を被告管理者に付与するというような被告側の便宜を目的としたというよりも、むしろその主眼は、年休時季指定を被告職員に対する一方的勤務割変更が可能な時期までに行使させることによつて、被告による代務者の確保を容易にし、もつて人員不足等による時季変更権行使を出来る限り不要ならしめようとの配慮に出たものと理解されるのであつて(右のような労基法に規定のない年休の時季指定に関する時期制限規定は、このように理解することによりはじめて同法に抵触することなく有効なものとなろう。)、右就業規則に則つた年休の時季指定が、そのままでは事業を正常に運営するための人員に不足を招来させるような場合には、被告において勤務割変更等による代務者確保に最大限努め、それにもかかわらず代務者の補充が困難なことを時季変更権行使の前提要件としているものと考えられるのである。

確かに、宿直宿明勤務の「最低要員配置」は職員側の同意に基づく措置であり、その服務内容の特殊性からして、勤務割変更により欠員の代務を命じられた者にはかなりの負担をかけることになるから(それだけに、就業規則上は前々日の勤務終了時までは勤務割変更を一方的に命じうるとしても、宿直宿明勤務への勤務割変更については事実上職員の了解を必要とする場合が多いであろうし、そのために代務者の確保が困難な場合も生じてこよう。)、宿直宿明勤務日の年休請求を良識の範囲で自制するよう職員に期待すること自体あながち不合理とは考えられないし、また、職員の勤務時間、週休日及び休暇の運用等に関する依命例規・規準(<証拠略>)においても、宿直宿明勤務者に対する休暇の付与方法について、被告から、宿直宿明勤務を行う職員に休暇を与えることは一般に夜間帯における「最低要員配置」を下回る結果となり業務上支障を来すので他の服務に勤務割変更するよう努められたい旨の指針が示されてはいるが(もつとも、これも宿直宿明勤務の当該勤務日の不就労を勤務割変更によつて実質的に保障しようとするものである。)、それだからといつて、宿直宿明勤務日の年休は本来厳に必要やむを得ない場合(職員側にやむを得ない事情のある場合)のみに許されるとの被告の主張は採用し難いし、従来、宿直宿明勤務日の年休が労使間の合意等を得て、あるいは慣行的に同主張のような基準のもとに処理されてきたとの事実も認められない(この点に関しこれを肯定する趣旨の証人佐藤恒雄の証言部分はにわかに措信できない。)。

(四)  ところで、被告は、このような勤務割変更による代務者の補充の原則に対して、勤務割変更はあくまでも被告の権利であることを前提に、成田空港開港阻止闘争に関連した当時の被告に対する厳しい社会状況(厳格な服務管理の要請)に照らせば、原告らに年休取得についての格別やむを得ない事情がない以上、勤務割変更による代務者の選任をしないことに合理性があつたもので、このように勤務割変更(代務者の補充)をしないことに合理性がある場合には、勤務割不変更の結果「当該年休取得が事業の正常な運営を妨げる」として時季変更権を行使することも許される旨主張する。

しかしながら、宿直宿明勤務のような「最低要員配置」の服務において年休の時季指定がなされた場合、使用者において少なくとも代務者の確保に最大限努めるべき法的義務を負担していると解すべきことは前記のとおりであるから、この場合の勤務割変更を被告側の権利としてのみとらえる被告の主張はその前提において首肯し難いばかりでなく、尽きるところ、被告の主張は、使用者は労基法三九条三項但書の定める「事業の正常な運営を妨げる場合」以外の「合理的理由」なるものによつても労働者の年休権を一般的に制限しうるとの見解に帰着するのであつて、たとえ被告事業の特殊性(抗弁1の事実)を考慮したとしても、これが前記年休権の内容(年休権は、労基法三九条一項、二項の要件を充足することにより当然発生し、また使用者は労働者の年休利用目的を干渉しえない。)と相容れず、労使双方の利益衡量のうえに立つて時季変更権の要件を定めた右労基法の規定に背馳する結果となることは避けられず、にわかに採用しえないところである。

もつとも、年休の利用目的が使用者の干渉を許さない労働者の自由に属するものであるといつても、労働者が犯罪行為など企業秩序に著しい混乱を招来させる結果となる反社会的行為のために年休を利用し、しかも、時季指定の際そのような利用目的の反社会性が明白な場合(例えば、労働者自らが反社会的な利用目的を公言しているなど)には、当該時季指定を無効なものとして、使用者においてこれを拒絶しうる余地もあると解されるが、それにしても、その判断は具体的、客観的に行われなければならず、単なる反社会的利用の危険、あるいは疑いといつた程度の使用者側の主観的判断のみによつて労働者の年休取得を制限するがごときは、年休自由利用の原則を形骸化することとなり許されないものといわなければならない。しかるところ、本件においては、原告らの各年休時季指定が被告において例外的に拒絶しうるような事情を附帯させていたとの主張・立証はなされていないから、この点においても被告の主張は採用しえないものである。

(五)  以上によれば、今沢副課長及び佐藤課長が原告らの年休時季指定に対し、代務者補充の余地があらかじめ全くなかつたというわけではないのに(原、被告間において、右原告らの代務者となりうる可能性のあつた者の範囲について争いがあるものの、少なくとも週休者((原告高橋に関してはA組に属する週休者))が代務者たりうる可能性があつたことは被告が自陳しているところである。)、代務者の確保に努めることはおろかこれを意識的に拒否したうえ、原告らの年休取得が「最低要員配置」に不足を生じさせるとの理由をもつて行使した時季変更権は、違法、無効なものと認められ、右原告らの各年休はその請求どおりに成立していたというべきである(なお、前記のとおり、原告高橋は、五月二〇日午後四時一五分頃、翌二一日の年休を取り消し、併せて同日の勤務を日勤に変更して欲しい旨申し入れたのに対し、鈴木課長がこれを拒絶している事実が認められるが、右拒絶の理由は、二〇日の年休が取得されていないことを前提に宿直宿明勤務が一体をなしていることをもつてしてなされたものであるから、仮に宿直宿明勤務が一体として扱われるとしても、原告高橋が二〇日につき有効な年休を取得している以上、二一日についての年休取消しが無効になるにすぎないと解され((これを二一日の年休取消しは有効とし、二〇日の年休も取り消されたと解するのは、原告高橋の意図に全く沿わないものであろう。))、前記判断に影響を及ぼすものではない。)。

3  原告伊藤修関係

原告伊藤修は、被告から無断欠勤と扱われた日の欠勤は適法な年休の取得によるものである旨主張するところ、被告は、そもそも同原告の年休時季指定は就労日当日になされたものであるから、年休請求は就労日の前々日の勤務終了時までに行わなければならない旨定めた就業規則に違反し無効である旨、また、仮にそうでないとしても、右時季指定に対しては適法な時季変更権を行使したから同原告の年休は成立していない旨主張しており、同原告に対する懲戒処分等の正当性の有無は、同原告による年休時季指定の適法性及びその適法性が肯定された場合の被告による時季変更権行使の適法性の有無にかかつている。

(一)  以下の事実は当事者間に争いがない。

〈1〉 原告伊藤修の所属する第一通信課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関する抗弁5の(三)の(1)及び(2)の事実。

〈2〉 原告伊藤修は、昭和五三年五月一九日を夜勤勤務(午後二時三〇分から午後一〇時三〇分まで)と指定されていたところ、同日午前九時一八分頃、電話で戸村副課長に対し、同日を年休とする旨の時季指定をしたが、これに対し、永野課長が時季変更権を行使したこと。

(二)  「本件紛争の背景」に関する前記認定事実と右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右各証言及び右本人尋問の結果中、同認定に反する部分は措信することができず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

〈1〉 原告伊藤修の所属する第一通信課では、服務線表上、午後五時以降同九時三〇分までの夜間帯の要員として、夜勤勤務者(午後二時三〇分から同一〇時三〇分まで((但し、実質勤務時間は午後九時三〇分まで)))三名と、宿直勤務者二名を配置し、同原告の年休時季指定日である五月一九日も、当初夜勤勤務者に同原告、佐藤幸作係長及び辺見公市(A組)の三名が、宿直勤務者に荻野春男(A組)及び斎藤照明(B組)の両名が勤務割指定を受けていた。

〈2〉 その後、右五名のうち、佐藤幸作が五月八日に年休を取得し、同月一六日には荻野春男が特別休暇(忌引)の取得を戸村副課長に申し出た。同副課長は、荻野春男の勤務が「最低要員配置」の宿直勤務(また翌二〇日は宿明勤務)であつたため同人の代務者を補充することとし、早速A組所属の鈴木威志に了解を得て右代務を命じ(なお、同人は一九日は日勤、二〇日は夜勤の勤務割指定を受けていた。)、同日(五月一六日)はその旨を永野課長に報告した。

〈3〉 ところが、右報告を受けた永野課長は、一九日の夜間帯は代務者を補充しなくとも三名の人員(原告伊藤修、辺見公市、斎藤照明)が確保されていること、同課長自身一九日と翌二〇日は病休の運用主幹に代わつて泊り、明けの勤務が予定され、戸村副課長も一九日は午後五時から同一一時頃まで局内パトロール等の局舎警備(右局舎警備は、「三・二六解放同盟」なる団体から昭和五三年四月二一日、先の成田空港開港阻止闘争に参加して逮捕された者の身分保障等の要求と、これが容れられない場合同月二二日に被告の通信設備を爆破する旨の予告があつたことから、仙台中電においても全管理者により継続して行われていた。)を命じられていたことから、一九日の午後五時以降のうち夜勤勤務者が勤務する同九時三〇分までは現在確保されている三名の人員で業務に支障を生ずることはなく、宿直勤務者が一人となるそれ以降の時間帯についても戸村副課長に宿直勤務者の業務を補助的に代行させれば業務に支障を生ずることはないと判断し、また、これにより、鈴木威志に無理をして勤務割の変更を命ずる必要もないし(同人が本来勤務割の指定を受けていた五月一九日、二〇日の勤務時間帯の配置人員を減員せずにも済む。)、戸村副課長に夜半帰宅させる煩をとらせずにも済むとの配慮から、同副課長に対し、右一九日の局舎警備は午後九時までとするよう許可をとるから、同日午後九時三〇分以降は荻野春男の代務者を補充する代わりに同副課長自身が宿直勤務(及び翌二〇日の宿明勤務)を補助的に代行するよう命じ、これを受けた同副課長は、鈴木威志に荻野春男を代務する必要がなくなつた旨告げ、先の勤務割変更を取り消した(右取消しも五月一六日に行われた。)。また、その後間もなく、永野課長も佐々木次長から、右一九日の戸村副課長の局舎警備を午後九時までとすることで許可を得た。

〈4〉 五月一九日午前九時一八分頃、戸村副課長は、電話で、原告伊藤修から同日の夜勤勤務を年休としたい旨の申入れを受けた。同副課長は、同原告が年休を利用して成田空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの危惧を抱き(同副課長も佐々木次長から服務規律厳正化の指示を受けていた。)、成田空港に行つてはならない旨注意したところ、同原告から空港開港反対闘争に参加するかどうかは別にしてそれを理由に職員の年休を制限しえないはずである旨反発されたことから、永野課長らと年休の取扱いを検討することにして、同原告にしばらく電話を切らずに待つているよう告げたが、同原告は同副課長の検討結果を聞くことなく電話を切つた。

〈5〉 戸村副課長は、同日午前一一時三〇分頃、永野課長に原告伊藤修から年休の時季指定があつた旨報告したところ、同課長は、原告伊藤修が年休を利用して空港開港阻止闘争に参加する疑いが残る以上(なお、同原告は翌二〇日の勤務につき既に年休を取つていた。)安易に年休を認めるわけにはいかないこと、当日の勤務予定者のうちから既に夜勤勤務者及び宿直勤務者が各一名ずつ休暇を取つているため午後五時から同九時三〇分までの夜間帯の配置人員は三名のみとなつており、当日は繁忙期にあたつていたことからこれ以上の欠員は業務の正常な運営に支障を及ぼすと考えたこと、勤務当日の年休請求であるのに自発的に年休の利用目的が明らかにされず、格別年休を必要とする事情も認められなかつたことなどから、勤務割変更による代務者の補充を全く考慮しないまま、同日午後一時五分頃、組合事務所にいた同原告に架電し、右人員配置状況を説明し、同原告の年休取得により夜間帯の事業に支障が生じることを理由に同月二三日以降に年休を変更するよう促して時季変更権を行使し、所定の勤務に就くよう命じたが、同原告はこれを拒否し電話を切つた。

〈6〉 結局、原告伊藤修は、右一九日の夜勤勤務に就かなかつたことから、永野課長は、その対応策として、佐々木次長に戸村副課長を当日の局舎警備からはずすことの許可を得たうえ、同副課長を同日午後五時から同原告の代務に就かせた。

(三)  原告伊藤修の年休時季指定が就業規則に違反し無効であるとの被告の主張について

被告の就業規則には交替服務に従事する職員の年休請求について休暇の前々日までに時季指定をしなければならない旨定められていること及び原告伊藤修の年休請求が右の規定に違背して勤務の当日になされたことはいずれも当事者間に争いがない。しかしながら、年休の請求時期に関する右就業規則等の定めが、勤務割変更による代務者の確保を容易にし、できる限り時季変更権の行使を不要ならしめることを主たる目的としていると認められることは前記のとおりであるから、当該時季指定が時季変更権の要否を判断する時間的余裕さえも与えない時期になされたような特別な場合はともかく、単に右規定に反したとの一事をもつて直ちにこれを無効とすることは、年休時季指定の行使時期に条理上要求されるもの以上の格別の規制を加えていない労基法の規定に抵触して許されず、時季指定が右就業規則等に定められた時期に遅れたことは、右特別な場合を除き、あくまでも代務者補充の困難等時季変更権の要否を判断するにあたつての一事情として考慮されるにすぎないものと解するのが相当である(<証拠略>結果によれば、実際の運用においても、昭和五三年当時、第一通信課では職員の年休請求が休暇当日になされることがしばしばあつたが、これが就業規則等の定めに違背するとして直ちに無効とされるような例はなかつたことが認められる。)。

しかるところ、原告伊藤修の年休時季指定は、前記認定のとおり就労開始時の約五時間前になされているから、これが被告において時季変更権行使の要否を判断する時間的余裕さえも与えないというような特別な場合に該当するとまでは言い切れず、したがつて、同原告の年休請求が就業規則に定める時期制限規定に違背したことを理由に右年休時季指定が無効であるとする被告の主張は失当である。

(四)  時季変更権行使の適法性について

そこで、被告の時季変更権行使が、労基法三九条三項但書所定の要件を満たすものか否かについて検討する。

前記(二)の認定事実によれば、第一通信課では、服務線表上夜間帯(午後五時から同九時三〇分まで)の人員として、宿直勤務者の二名のほかに、夜勤勤務者三名を配置しているところ、もともと宿直勤務は「最低要員配置」であるから、夜間帯に宿直勤務者のほか夜勤勤務者をも配置しているということは、服務線表上は、夜間帯の業務を支障なく処理するための要員として、少なくとも三名の人員を予定しているものと考えられる。しかるところ、服務線表は、前記のとおり従前の業務量等を参酌したうえ労使間の協議のもとに決定されたものであるから、服務線表がある時間帯に対し最少限必要な要員を予定しているような場合には、時季変更権行使の要件となる事業の正常な処理に必要な要員数の判断にあたつても、特段の事由がない限り右服務線表上の要員数によるのが相当である。そうすると、第一通信課では夜間帯の業務を支障なく処理するために、最少限三名の人員が必要であり、三名の人員を確保しえないときは、原則として時季変更権を行使できるものと解すべきこととなる。これに対し、原告伊藤修は、第一通信課においては夜間帯に三名の人員が欠ける場合もあつた旨主張し、<証拠略>によれば、第一通信課においてはこれまでも夜間帯又は夜間帯の一部に二名の人員しか配置されていない場合があつたことも認められるのであるが、そのような配置はまさに例外で、夜間帯には原則として三名以上の人員が確保されてきたことが右各証拠からも充分認められるのであつて、右例外的事態の存在によりこれまで三名以上の人員が確保されてきたとの認定が左右されるものではないし、本件において例外的な取扱いによつても事業の正常な運営に影響を及ぼすおそれはなかつたとの事情を窺わせるような証拠は存しない。そうすると、原告伊藤修がその時季指定どおりに年休を取得したとすると、五月一九日の夜間帯の配置人員は二名のみとなり、また、同原告の年休時季指定が当日なされたもので勤務割変更に関する前記労使間の協約(前日又は当日の勤務割変更には本人の同意が必要)から代務者の補充も客観的に困難な状況にあつたと認められるから、同原告の年休時季指定は業務の正常な運営を妨げるおそれがあつたものとして、一応時季変更権行使の要件を満たすこととなる。

そこで、さらにすすんで右時季変更権行使が原告伊藤修の主張するごとく権利の濫用に当たるものか否かについて検討する。

五月一九日の夜間帯の配置人員が原告伊藤修を含めて三名となつたのは、当日宿直(及び翌日の宿明)勤務を命じられていた荻野春男が特別休暇を取つたのに、永野課長がその代務者を選任せず、午後九時三〇分以降の時間帯についてのみ戸村副課長に宿直勤務の補助的代行を命じたためであることは前記のとおりである。ところで、宿直勤務は、夜勤勤務者が実質的に勤務を終了する午後九時三〇分以降において「最低要員配置」となることから、これに欠務者を生ずるときは代務者を補充する取扱いを原則としていたことは前記のとおりである(その場合の代務者補充は、午後九時三〇分以降のみでなく宿直((さらには宿明))勤務の全時間帯を通してなされる。)。したがつて、一九日について宿直(及び宿明)勤務の欠務に管理職の補助的代行措置しか講じなかつた永野課長の措置は、本来の取扱いに背くもので、その結果として当日の午後九時三〇分以降の業務に影響を及ぼすおそれを招来させていたし、そもそも、本来管理職としての業務を遂行すべき者に一般職員の担当業務を代行させたこと自体業務の正常な運営に影響を及ぼすものであるから(この点は被告の自陳するところでもある。)、特別の事情のない限り本来許されない措置であつた。そして、前記認定のとおり、一九日については一般職員による代務者の補充が容易に可能であつたもので、これを選任しなかつたことについては、当時の業務体制及び永野課長が代務者を補充しなかつた動機においてもこれを不要若しくは不適当とするまでの事情は全く窺えないのであつて(前認定の同課長が代務者選任を不要と判断するにあたつて斟酌した諸事情は、どれをとつてみても、「最低要員配置」の欠務に対する代務者補充という原則的措置を排除するに足るだけの合理性をもつものではない。)、結局、五月一九日については、管理者のあやまつた人員配置上の措置により午後九時三〇分以降の正常な業務に影響を及ぼす状態を招来させていたと評価されても仕方のないものであつた。

しかるところ、永野課長が本来の取扱いに則り、荻野春男の代務者を適正に選任していたならば、一九日の夜間帯の勤務者は原告伊藤修を含めて四名となつており、たとえ同原告が年休を取得したとしても右時間帯の業務を正常に処理するために最少限必要な三名の人員(夜間帯の業務処理に最少限三名の人員を必要とすると認められることは前記のとおりであるが、永野課長が五月一九日の夜間帯の業務を三名の人員で処理できると判断していたことも前記認定のとおりであつて、同日の夜間帯について三名を超える人員が必要であつたとの立証はなされていない。)は確保されていたのであるから、代務者補充の能否を考慮するまでもなく、同原告の年休は取得されるべきはずのものであつた。それゆえに、本件で原告伊藤修の年休取得により発生するおそれのあつた業務への支障は、あくまでも被告管理職員の過誤による人員配置上の異例な取扱いに起因するものというべきであつて、被告が右異例な人員配置を放置したまま(したがつて、右人員の配置により自ら発生させている午後九時三〇分以降の正常な事業に影響を及ぼす状態を放置したまま)、同原告の年休が事業に支障を及ぼすおそれがあるとしてこれに制約を加えることは、恣意的な労務指揮ないしは年休管理というべきであつて、被告の時季変更権行使は、公平及び信義則の観念に照らして許されない違法、無効なものと解するのが相当である。

(五)  以上によれば、原告伊藤修の本件年休時季指定は適法、有効なものであり、一方これに対する永野課長の時季変更権行使は、信義則に照らし許されない違法、無効なものと解すべきであるから、右年休は、その時季指定どおりに成立したものといわなければならない。

4  原告渋谷及び同鈴木関係

原告渋谷は、被告から無断欠勤と扱われた期日について、昭和五三年五月二一日は祝日代休により休暇を取得しており、また、同月二二日は原告鈴木との勤務交替による非就労時間帯である旨主張するところ、被告は、原告渋谷の主張する祝日代休及び勤務交替をいずれも設定、承認していない旨主張しているから、同原告に対する懲戒処分、賃金カツトの正当性の有無は、同原告がその主張のとおりに祝日代休を取得し、原告鈴木との間で勤務割を変更していたか否かにかかつている。また、原告鈴木も、被告から無断欠勤とされた時間帯について、原告渋谷との勤務交替による非就労時間帯である旨主張するところ、被告は、右原告両名から申出のあつた勤務交替は承認していない旨主張しており、原告鈴木に対する懲戒処分、賃金カツトの適法性の有無も、同原告がその主張のとおりに勤務割を変更していたか否かにかかつている。

(一)  原告両名が本件懲戒処分及び賃金カツトを受けるまでの経緯

右原告両名の所属する検査課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関する抗弁6の(二)の(2)の〈1〉、〈2〉、同(三)の(2)の〈1〉の各事実は当事者間に争いのないところ、前掲<証拠略>を総合すると、次の事実を認めることができる。

〈1〉 原告渋谷は、昭和五三年五月二一日、諸休暇申出受付簿の「その他の休暇」記載欄に同月二一日の日勤(午前八時三〇分から午後四時三〇分まで)勤務を祝日代休とする旨記載した。

〈2〉 昭和五三年五月二二日の勤務につき、原告渋谷は午前九時から午後五時三〇分までの日勤、同鈴木は午後二時から同一〇時までの夜勤と各指定されていたところ、原告鈴木において、同日午後一時から同四時まで組合の職場委員会に出席する都合と(組合業務に従事することなどを理由とする組合休暇は無給で、しかも一日又は半日単位で付与されているところ((就業規則四三条))、右無給とされた賃金は組合で補填するため、組合からできるだけ効率の良い組合休暇を取るようにとの指導がなされており、本件における原告鈴木のような場合には、夜勤を日勤に変更したうえで組合休暇を取るのを常としていた。)同日夜に私用があつたため、同月一三日頃、原告渋谷に同月二二日の勤務割を交替することを頼み、その了解を得て両名の右勤務交替を同日の諸休暇申出受付簿「勤務交替」欄に記載した。

〈3〉 同月一五日、原告両名の祝日代休及び勤務交替に関し決裁権限を有する斎藤課長は、宮城電気通信部長外二名の連名による「職員各位にのぞむ」と題する書面及び仙台中電庶務課長名義の「お知らせ」と題する書面(前記二の1「本件紛争の背景」の〈4〉に記載したもの)を課内の掲示板に掲示したところ、原告両名から前者の書面の内容に関し抗義を受け、その際原告両名から既に前記祝日代休及び勤務交替の申出がなされていることを告げられた。そこで、同課長は、佐々木次長から受けていた服務規律厳正化の指示に基づき、原告両名に対して五月一八日から同二二日にかけては原則として祝日代休及び勤務交替を認めない方針である旨伝えるとともに、ただやむを得ない事情があれば承認することも検討するから祝日代休及び勤務交替を必要とする理由を明らかにするよう再三求めたところ、原告両名が従来から理由を述べなくても承認されていたはずだとしてこれを明らかにすることを拒否したことから、同課長は、原告両名が祝日代休若しくは勤務交替を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、その場で原告両名の各申出は承認しない旨申し渡した。

〈4〉 同月一七日午後五時一一分頃、原告両名は斎藤課長にその理由を明らかにすることを拒否したまま前記祝日代休及び勤務交替の申出を承認するよう要求したのに対し、同課長は、理由を明らかにしない以上承認しえない旨応答し、指定どおりの勤務に就くよう命じた。

〈5〉 同月一八日午後、原告鈴木は、同月二二日の日勤につき、後半日を組合休暇とする願いを、斎藤課長が不在であつたため運用部主幹に提出したところ、同原告の同日の勤務は夜勤である(勤務交替の申出は承認していない。)ことを理由に不承認とされた。

〈6〉 翌一九日午前八時五二分頃斎藤課長は原告両名を呼び出し、原告鈴木の組合休暇に関し、指定された夜勤勤務を前提としての組合休暇なら認める旨述べ、また原告渋谷に対し重ねて祝日代休を必要とする理由を明らかにするよう求めたが、両原告はいずれもこれを拒否したため、やむなく両名に指定された勤務に就くよう命じた(その後同課長は、同日午後四時二七分頃原告渋谷に対し祝日代休及び勤務交替は承認しないゆえ所定の勤務に就くよう再度命じた。)。

〈7〉 しかし、原告両名は、斎藤課長の命令に従わず、申し入れた祝日代休、勤務交替はいずれも承認されたとして、前記のとおり指定された勤務に就労しなかつた。

(二)  祝日代休不承認の正当性

(1) 右認定事実によれば、斎藤課長は、佐々木次長の服務規律厳正化の指示に基づき五月一八日から同月二二日までは原則として祝日代休を設定しないとの方針をもつていたところ、原告渋谷が祝日代休の利用目的を明らかにしなかつたことなどから、さして確たる根拠もないまま、同原告が祝日代休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、祝日代休が右闘争に参加する手段として利用されるのを回避する目的から同原告の祝日代休をその希望日に設定しなかつたことが認められる。

もつとも、被告は、原告渋谷の祝日代休を設定しなかつた理由として、業務の繁忙が予想されていたことを主張し(業務の繁忙が予想される以上、服務規律厳正化の指示に従い祝日代休を設定しなかつたことには合理性がある。)、証人斎藤繁信の証言及び同人作成の報告書(<証拠略>)中には右主張に沿う内容のものがあるが、前記認定のとおり斎藤課長が原告渋谷の祝日代休を承認しなかつたのは、五月一八日から同月二二日までは原則として祝日代休は承認してはならないという佐々木次長の指示に従つたまでのことで、右指示に業務の繁忙に対する配慮は何ら含まれておらず、また、<証拠略>によれば、原告渋谷の祝日代休の申入れが斎藤課長に判明した昭和五三年五月一五日の時点では、同月二一日の日勤帯勤務時間内の欠務者は一名のみで、同原告を除いても四名の人員(及び臨時職員二名)が確保されていたが、他方、右二一日の業務量はその一週前に当たる同月一四日のせいぜい二分の一程度と予想されており、右一四日の日勤帯勤務時間は年休取得者一名、祝日代休取得者が二名承認されたため三名(及び臨時職員二名)の職員で業務を処理していたこと、右二一日の実際の就労人員も、原告渋谷の就労が期待しえない状況において、当日になつて病欠者一名がでているにもかかわらず、さらに他の職員の当日なされた二時間の年休請求が何らの代替措置も採られることなく承認されていることが認められるのであつて、右各事実に照らせば、五月二一日の業務に繁忙が予想されていたとはいえ、斎藤課長が正常な業務処理への影響という観点から原告渋谷の祝日代休を処理したとは到底認め難く、この部分に関する前記斎藤証言及び同報告書は措信し難いから、被告の主張はその前提において失当なものである。

(2) そこで、職員が企業外で非違行為(違法な空港開港阻止闘争に参加)に出るのではないかとの疑いを抱き、これを理由として祝日代休を設定しなかつたことの当否について検討する。

祝日代休に関しては、昭和五〇年一〇月二七日被告主張の内容の労働協約が被告と全電通労組間に締結されていることは当事者間に争いのないところ、同協約(<証拠略>)には、祝日代休の設定方法に関し「毎年度四月一日以降、法定休日と週休日等が重複した場合はその重視した法定休日順に年度三日を限度とし、原則として三ヶ月以内に代替休日を設定する。」と規定するのみで、それ以上の運用に関する具体的な規定を何ら設けていないところから、被告は、祝日代休の設定は右協約の範囲内で被告の裁量のもとに設定されるものである旨主張し、原告渋谷は、その設定に関し一定の慣行の存在を主張する。

そこで、この点についてみると、前掲<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、まず次の事実を認めることができる。

〈1〉 仙台中電における祝日代休の設定は、同制度の発足以来、祝日代休を取得する資格のある職員がその希望する祝日代休日の諸休暇申出受付簿にその旨を記載して所属上長(各課長)に申し入れるという方法によるのを通常としていた。

〈2〉 職員が右祝日代休の申入れをなすにあたり、所属上長からその利用目的を明らかにするよう求められたことはなく、また職員が自らこれを申し述べるようなことも一般にはなかつた(この点につき、証人斎藤繁信の証言中、右認定と異なる部分は措置しえない。)。

〈3〉 職員から申し入れられた祝日代休希望日は、当該職員の欠勤が業務の正常な運営に支障を及ぼすものでない限り、例外なく所属上長によつてそのまま承認され、祝日代休の設定をめぐつて労使間に紛争を生じるようなことはなかつた。

〈4〉 そのため、職員側においては、祝日代休は業務の正常な運営に支障を及ぼさない限り希望日どおりに設定されるとの意識が形成され、被告においても右のような祝日代休の運営及び設定基準に格別異議を述べることはなかつた。

〈5〉 斎藤課長は、検査課長在任中(昭和五二年三月から同五五年二月まで)、職員に祝日代休希望日を変更させた例が年間二、三回程度あるものの、その理由はあくまでも要員配置状況による正常な業務処理への影響を配慮してのものであつた。

以上のとおり認められる。

右によれば、仙台中電における祝日代休の設定は、右制度の発足以来継続して、職員がその希望する祝日代休日を指定し、これが業務の正常な運営に支障を及ぼすものでない限り利用目的の如何を問わず承認(設定)されるという扱いで被告にも異議なく運営されてきたものであるから、このような祝日代休の設定方法に関する右慣行的取扱いは、労働協約の内容を補完、具体化する解釈基準として同協約の内容を形成していたと解するのが相当である。そして、労働者の休日をして、単なる労働能力の回復、涵養だけにとどまらず、広く労働者に文化的、社会的な生活を営ましめるための余暇を保障するものと理解する限り、休日は業務に支障を及ぼさない以上、労働者の希望日に与えられることが望ましく、またその利用目的も当然労働者の自由にゆだねられるべきものとなるから、右祝日代休の慣行的設定方法はその内容においてもすこぶる合理性をもつものであつて、仙台中電における職員は、右協約上、業務に支障のない限り希望する日に祝日代休を受けうる権利を有していたと解され、原告渋谷も被告仙台中電の職員として同権利を有していたものと認められる。

そうすると、業務への支障の有無という観点からではなく、さして確たる根拠もないまま原告渋谷が祝日代休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、これを防止するとの目的から同原告の祝日代休を設定しなかつた斎藤課長の措置は、祝日代休の設定に関し同原告が有する協約上の権利を何らの手続も採ることなく一方的に無視してなされたものとみるべきであるから無効といわなければならない。確かに、従業員の企業外の非行は企業の社会的評価を低下させ、ひいては企業秩序を混乱させる危険を内包するものであるから(特に被告のような公的企業においては右危険の度合いは高度となろう。)、使用者が従業員の企業外の非行に関してそれなりの関心をもつことは当然ともいえるが、前記のとおり休日の利用目的が労働者の自由にゆだねられるものである以上、従業員が企業外で非行を犯すのではないかとの漠然とした疑いを抱いたのみで当該従業員の休日取得を制限するような取扱いは、本来自由であるべき従業員の私的生活領域をいたずらに干渉する結果となりそもそも許されないと考えられる(この点において、従業員の企業外非行に対する使用者の対応が、原則として日常の指導、啓蒙及び事後的な懲戒等の処分によらざるをえないことはやむを得ないところであろう。)。

(3) 以上のとおり、原告渋谷の祝日代休の申入れに対し、斎藤課長が採つた不承認の措置は前記労働協約に違背し無効なもので、本来右申出は承認されるべきものであつたから、同原告の祝日代休は、その申出どおり設定されたと解するのが相当である。

(三)  勤務交替不承認の正当性

(1) 前記(一)の認定事実によれば、斎藤課長が原告渋谷、同鈴木から申出のあつた勤務交替を承認しなかつた理由は、原告渋谷の祝日代休の申出を不承認としたと同様、五月一八日から同二二日までの間は原則として勤務割変更を行わないとの方針のもとに、右勤務交替が違法な空港開港阻止闘争に利用されるのではないかとの疑いを抱き、これを回避することにあつたことが認められる。

(2) ところで、被告は、勤務割の変更は勤務割の指定と同様使用者が本来有する労務指揮権を行使するものでその専権に属するから、これを行うか否かは挙げて所属上長の裁量にゆだねられており、勤務交替を承認するか否かも全く同様である旨主張するのに対し、原告両名は、勤務交替の取扱いに関しても、一定の慣行の存在を主張する。

そこで、この点についてみると、前掲<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

〈1〉 被告と全電通労組は、被告が職員に対して行う勤務割の変更に関して昭和四三年四月労働協約を締結し、被告が職員の勤務割を変更する場合の一つとして、「本人の申出に伴うもの」との事由を挙げていたところ、仙台中電においては、右協約が締結されるかなり以前から、交替服務に従事する職員が指定された勤務割の就労に何らかの不都合を生じた場合、同じ課の交替服務従事者の同意を得て、同人との間で指定された勤務割を交換、変更する勤務交替の便法が採られていた。

〈2〉 右勤務交替は、これを希望する職員が該当日の諸休暇申出受付簿「勤務交替」欄に勤務割を交換する職員両名の氏名と勤務時間を記載して所属上長に申し入れる方法によつていた。

〈3〉 職員が勤務交替の申入れをなすにあたり、所属上長からその理由を明らかにするよう求められたことはなく、また職員自らその理由を申し述べるようなことも一般にはなかつた(この点につき、証人斎藤繁信の証言中、右認定と異なる部分は措信しえない。)。

〈4〉 勤務交替の申入れは、これが業務の正常な運営に支障を及ぼすものでない限り所属上長によつて承認され、従来、勤務交替の取扱いをめぐつて労使間に紛争を生じたようなことはなかつた。

〈5〉 勤務交替の制度は、指定された勤務割の就労に支障があるとき年休等の休暇を取ることなくこれに対処しうるため職員から頻繁に利用され、他方管理者側にとつても、勤務交替は一般の勤務割変更の場合に必要となる代務者確保等の措置に煩わされることなく職員の勤務割変更の要望に応ずることができるためこれを積極的に承認し(仙台中電が作成している諸休暇申出受付簿に「勤務交替」の欄が設けられていることは前記のとおり)、ともすると、当該勤務交替が業務の正常な運営に及ぼす影響を充分考慮しないまま安易に承認されていた。

〈6〉 被告による勤務割の変更は、職員の計画的な生活に変更を余儀なくさせることから、その恣意的行使を抑制するため、被告に対し、一週間分の勤務割変更を取りまとめ組合に通知することを義務づけているのに対し、勤務交替による勤務割変更の場合は、職員側からの申入れに基づくものであることを理由に右通知の対象外とされ、また、勤務割変更が職員の勤務時間数に増減を生じさせたときは、その後の勤務割指定においてこれを調整する取扱いとなつていたことに対しても、勤務交替の場合は、職員相互が了解のうえ行つていることを理由に何らの調整措置も採られていなかつた。以上のとおり認められる。

右によれば、仙台中電においては、かなり以前から、勤務割変更の一類型として、同じ課で交替服務に従事する職員同士が、その合意のもとに指定された勤務割を交換するという勤務交替の制度が慣用され、職員からの勤務交替の申出は、業務の正常な運営に支障を及ぼさない限り、これを必要とする理由の如何を問わず所属上長により承認されるという取扱いが行われてきたことが認められ(もつとも、ともすると当該勤務交替が業務の正常な運営に支障を来たすか否かの検討が安易なものになつていたことは前記認定のとおりである。)、他方、被告の就業規則及びその他の協約類に右のような勤務交替を否定する趣旨のものは窺われないことからすると、右勤務交替の制度は、被告と仙台中電職員(交替服務従事者)間における事実たる慣習として個々の労働契約に転化し、その内容を形成しているものと解するのが相当である。したがつて、仙台中電で交替服務に従事する職員は、労働契約上業務に支障のない限り勤務交替により指定された勤務割の変更を受けうる権利を有していたと認められ、原告渋谷及び同鈴木も被告仙台中電の職員として同様の権利を有していたものとみるべきである。

(3) 被告は、右のような勤務交替の慣行に対して、仮にそのような慣行の存在が認められるとしても、勤務交替には勤務時間の調整がなされないから、これを頻繁に行つた場合労基法所定の労働時間を超えることもあり、結局、強行法規に抵触するおそれのある慣行として何らの効力をもたない旨主張するが、労基法の規定に抵触するような結果となる勤務交替の申出は、特定の職員に過重な労務を課すものであるから当然に業務の正常な運営にも支障を来たすものであつて、右慣行によつても安易に承認することなく拒否すべき勤務交替の申出にすぎず、労基法に抵触するおそれを理由に右慣行の違法性を論ずる被告の主張は当を得たものではない。

また、被告は、右慣行の存在を認めると、職員の指定された勤務割が何であれ、当該職員はそれにかかわりなく自己の希望するがままに就労し、または就労を免れるというきわめて不合理な結果となり、かくては使用者の固有の権利である労務指揮権ないしは職場管理権を全く奪うことになり違法というべきである旨主張するが、前記認定のとおり、交替服務者に対する事前の勤務割指定の目的は、被告が二四時間業務の体制を採るため、被告の業務を正常に処理するのに必要な人員をあらかじめ確保するという被告側の利益と、交替服務に従事する職員にもできる限り計画的な生活を送ることができるようにとの配慮にあるから、当該勤務交替が被告の正常な業務の運営に影響を及ぼすことのない限り、被告が労務指揮権等を主張し、職員の希望する余暇時間の選択に拘束を加えうる根拠はないはずであつて、この点に関する被告の主張も採用し難い(なお、被告は、本件勤務交替を承認しなかつた理由の一つとして、原告鈴木が五月一八日から同二二日まで連続して当初指定された勤務割を変更し、その上で右二二日につき勤務交替を求めたことを指摘し、これを斎藤課長が到底容認できない勝手な勤務交替と判断したことをあげるが、前掲乙第五号証の四、五、成立に争いのない甲第二六号証、証人斎藤繁信の証言によれば、原告鈴木の五月一八日から同二二日までの連続的な勤務割変更は、当初指定されていた同月二〇日、二一日の宿直宿明勤務を大崎克彦の指定されていた同月一八日、一九日の宿直宿明と勤務交替したため、これに必然的に伴う右大崎とその後の休日等の入れ換えの結果((なお、この勤務交替の申出は、佐々木次長による服務規律厳正化の指示が出される以前に承認されていた。))によるものであることが認められ、これをもつて原告鈴木が数日間にわたつて勝手な勤務割変更をしていたとまでは到底評価できず、この点の被告の主張も採用の限りではない。)。

(4) そうすると、原告渋谷と同鈴木との勤務交替が業務の正常な運営に何ら影響を及ぼすものではない(被告からこの点に関する具体的な主張・立証はなされていない。)にもかかわらず、これを承認しなかつた斎藤課長の措置は、勤務交替に関する前記慣行(原告両名の労働契約上の権利)を一方的に無視してなされた無効なもので、また、右慣行に従えば、両原告からの勤務交替の申出は承認されてしかるべきものであつたから、原告両名の五月二二日の勤務割はその申入れどおり変更されたと解するのが相当である。

5  以上のとおり、本件紛争の発端となつた原告らの各欠務は、いずれも適法な年休の取得、協約による休暇ないしは勤務時間の変更による非就労時間におけるものであり、したがつて、被告が、これを上長の就労命令を無視した無断欠勤であるとして行つた本件各懲戒処分及び賃金カツトはその余の点を判断するまでもなく違法、無効なものであるから、被告は、原告らに対し、未払賃金として別表(二)の「賃金カツト」欄に記載の各金員とこれに対する支払日の翌日である昭和五三年六月二一日(右支払日が同月二〇日であることは当事者間に争いがない。)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、また、被告は、原告高橋、同三浦、同伊藤範彦及び同渋谷に対し、別表(二)の「減給処分」欄に記載の各金員とこれに対する支払日の翌日である同年七月二一日(右支払日が同月二〇日であることは当事者間に争いがない。)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

また、本件においては、労基法一一四条により、附加金として、被告に対し前記未払賃金と同額の範囲内で各原告の請求にかかる金員の支払を命ずるのが相当である。

三  不法行為責任の有無について

1  責任原因

前記のとおり、被告の原告らに対する本件各懲戒処分はいずれも違法であり、弁論の全趣旨によれば、右違法な懲戒処分は、被告管理職職員による年休制度に対する理解を誤まつた時季変更権の行使又は従来の祝日代休若しくは勤務交替に関する慣行を一方的に無視した不承認を前提としてなされたものであることが認められるのであつて、右各懲戒処分をなすにあたつて被告に少なくとも過失があつたものと推認されるから、被告は、これにより被つた各原告らの損害を賠償すべき義務がある。

2  損害

(一)  慰籍料

前掲原告らの各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らが本件各懲戒処分によりある程度の精神的苦痛を被つたことが認められるものの、各懲戒処分の内容に鑑みると、右精神的苦痛は本件訴訟において、各懲戒処分の違法、無効が確認・宣言(さらに減給処分を受けた者については同処分額の支給)されることによつて慰籍されうる程度のものと認められ、各懲戒処分の無効が確認・宣言されたのみでは原告らの精神的苦痛を慰籍するに足りないとの事情を窺わせる証拠は存しない。したがつて、原告らの被告に対する慰籍料の請求は理由がない。

(二)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らが本件各懲戒処分の違法性を争い、これによる不利益を除去して自己の権利を擁護するためには、法律専門家たる弁護士に依頼して各懲戒処分の無効確認の訴えを提起し、これを遂行する必要があり、原告らも本件訴訟の提起・遂行を弁護士松澤陽明外三名に委任していることが認められるのであつて、本件事案の難易など諸般の事情に鑑みると、原告らが本件訴訟遂行等のため支出を余儀なくされた弁護士費用のうち右被告の違法行為と相当因果関係のある損害は、各原告につき金三万円とするのが相当である。

3  以上によれば、被告は、各原告らに対し、右違法な本件各懲戒処分によつて発生した損害として、金三万円とこれに対する右不法行為の後である昭和五三年六月二一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

四  以上の次第であるから、原告らの本訴各請求は、原告らが本件各懲戒処分の無効確認及び主文第二項記載の各金員の支払を求める限度で理由があるから右限度でこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用し、仮執行の宣言の申立てについてはその必要がないものとしてこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田平次郎 光前幸一 大門匡)

別表 (一)

原告

処分内容

無断欠勤したとされる日ないしは時間

賃金カット額

高橋

減給(一〇分の一)一ヶ月

(一万一〇一五円)

昭和五三年五月二〇日、二一日

九一一四円

三浦

同右(一万一〇五〇円)

同右

九七九五円

伊藤範彦

同右(同右)

昭和五三年五月一九日、二〇日

同右

伊藤修

戒告

昭和五三年五月一九日

三九四一円

渋谷

減給(一〇分の一)一ヶ月

(一万〇八二〇円)

昭和五三年五月二一日、同月二二日五時間無断遅刻、三〇分無断早退

七六八〇円

鈴木

戒告

昭和五三年五月二二日四時間二〇分無断早退

二九八八円

別表 (二)

原告

未払賃金

〈3〉

慰藉料

〈4〉

弁護士費用

〈5〉

労働基準法一一四条に基づく附加金

遅延損害金

〈1〉

減給処分

〈2〉

賃金カツト

高橋

一万一〇一五円

九一一四円

三五万円

一五万円

四五五七円

上記〈2〉ないし〈4〉の合計額(五〇万九一一四円)に対する昭和五三年六月二一日から及び上記〈1〉に対する同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員

三浦

一万一〇五〇円

九七九五円

同右

同右

九七九五円

同右(但し〈2〉ないし〈4〉の合計額は五〇万九七九五円)

伊藤範彦

同右

同右

同右

同右

同右

同右

伊藤修

三九四一円

一五万円

同右

三九四一円

上記〈2〉ないし〈4〉の合計額(三〇万三九四一円)に対する同年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員

渋谷

一万〇八二〇円

七六八〇円

三五万円

同右

上記〈2〉ないし〈4〉の合計額(五〇万七六八〇円)に対する同年六月二一日から及び〈1〉に対する同年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員

鈴木

二九八八円

一五万円

同右

上記〈2〉ないし〈4〉の合計額(三〇万二九八八円)に対する同年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員

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